【蓮行流◯◯道場#9「蓮行流劇団経営道場その3『プロである必要』」】

蓮行であります。

私が把握する限り、私の携わる「小劇場演劇」というジャンルの住人の90%以上は、演劇とは関係のないアルバイト等で生計を立てています。そして、彼らの多くから「もっと、演劇に使う時間がほしい」というような事を聞きます。「これで食えたらなあ…」と言う人も居ます。

ここからは単純な算数の話ですが、京都で20代の人間が何とか生きて行こうとすると、月額10万円ほどは必要です。これを、アルバイト時給800円で割ると、125時間働く必要があります。1日8時間働くなら、約16日、働く必要があります。週休2日確保するなら、月に10日の休みとなりますから、仕事でも休みでも無い日に演劇活動をするつもりなら、使えるのはわずか4〜5日です。いや、休みは週1でいい、というならプラス5日、休みなんかいらん!ということでも、月の演劇活動日は最大で15日。つまり、アルバイトの日数の方が多くなります。この、最大15日の演劇活動で、「食える」ような作品づくりや、活動ができるのでしょうか?「いや、18時から深夜まで、演劇活動をすれば、もっと時間は確保できる!」とか、「昼間の時間を空けるために、バイトは深夜にやってるよ!時給も高いよ!」という人もいます。しかし、上記のようにあくまでここで例示しているのは「月収10万円」のモデルです。休みもなく、深夜にアルバイトをして、月収10万円。なおかつ、若い演劇人の多くは、1回の公演で数万円の持ち出しをして活動しています。体を壊しても、医者にもかかれません。そんな活動ができるのは、せいぜい20代で、いわゆる「30歳定年説」のような状況になっています。

そして、もっと根本的な社会的な問題があります。それは、「世の中、シロウトには仕事なんか依頼しない」ということです。月の半分以上をバイトに費やしていて、いつやっているかわからないようなラーメン屋に行くでしょうか?来る日も来る日も店を開け、真剣勝負しているからこそ、お客さんが来るのではないかと思うのです。ましてや、公立の学校に演劇ワークショップの講師に行く、なんて仕事は、原資は税金です。納税者が、「何で趣味で演劇をやってるフリーターを、税金を使って公教育に携わせるのか?」と質問してきたら、答えに窮してしまいます。せめて、「彼らはプロですから、その実績等を勘案し、依頼しました。不評なら、もちろんお払い箱で、彼らはメシの食い上げです!」くらいの説明はできなくてはなりません。

私たちは、質の高い公演を作り、その活動を継続し、なおかつ公教育にも関わる身として、活動時間の確保と社会的信用の担保のために、「プロである必要がある」のです。

衛星歴17年11月現在、私は大阪大学の常勤教員の職にありますので、演劇に多くの時間を割く、って事もないんじゃないの?と言われそうですが、私は演劇を軸としたコミュニケーションデザインが専門という事になっていて、研究活動も、授業も、全て演劇に関わるものです。それらの別の角度からの刺激は、私を演劇人として一層鍛え上げている、と日々実感しています。劇団衛星の公演の本番は、大学の業務ときちんと区別して従事しますから、税金の不当な流用という事がないようしています。

そんな訳で、私は同じ小劇場演劇に携わる方に、プロで活動する事を強くお薦めしています。次回は、もう少し具体的に「ほんじゃどうプロになるのよ?」という所に踏み込めれば、と思います。