vol.15 人間は何を恐れるのか

今回は海外ドラマではなくて、これ!



『生きてるものはいないのか』
(2007年前田司郎作・第52回岸田國士戯曲賞受賞)

とある大学とその近辺でみみっちかったり大きかったりする事情を抱えながら生活を送っている人たち。
婚約解消の危機を迎えるカップル、その喫茶店で働くウェイター、そのカップルの結婚披露宴の余興を考える友達、都市伝説研究会のメンバー、病院で働く人、その訳ありの兄、事故を見て気持ち悪くなっちゃった人、そして死の病を抱えた女の子。
それぞれ生きていたのに、みんな次々と死んでいっちゃうのだった。

6月にドキドキぼーいずさんがこの戯曲を上演しまして、それに出演するのです。そう、今回は、海外ドラマを紹介するみたいに、演劇公演を紹介しようっていういやらしい回なのだった!ジャーン。

私の感想や解釈をつらつらと書いていきますので、先入観なく演劇を観たい方は、下の公演情報より先には行かない方がよろしかろう。
(ちなみにあくまで個人の感想であり、今回の作品ならびに演出の本間さんの演出プランを代弁するものではありません。お気をつけくださいませ)

公演情報+++++
アトリエ劇研創造サポートカンパニー シーズンプログラム2017
ドキドキぼーいず♯07 「生きてるものはいないのか」
日程 2017年6月7日(水)〜11日(日)
会場 アトリエ劇研
チケットはこちら http://ticket.corich.jp/apply/81705/005/
詳細はこちら http://stage.corich.jp/stage_main/65930
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そうですね、まず、とにかく会話をぼーっと聞いていればそれだけで面白い。人の滑稽さがふんだんに詰め込まれています。大学生三人組の誰が誰と付き合ってて、誰が誰を好きで、ちょっと牽制したり意識してたり、とそういう人間関係が「ああ、ありそうだな?」ってな感じ。それが、不条理に「ううっ!」とか言いながら死んでいくんで、ベルクソン的にいうと「こわばり」って言うんですか?(結局ベルクソン『笑い』は全部読めてへん)もう、人間が人形のようにバッタバッタと倒れていくのが最高です。

そして、さらによくよく見てみると、前半、のんきに見えて、あちらこちらに「死のイメージ」が埋め込まれているのですよ。はじめ、ぽつぽつだったものが、徐々にみんな「死」のことしか考えなくなっていく。私なんか最初から最後まで笑って見ているんだけど、「死」ってとっても引力のあるものだなと、よくよく考えればわかる仕組みになっていて、死を笑うんだけれど、実は全然軽く無いテーマを扱っているのだった。
そして、それは普段生きている私たちとなんら変わらないはずなんだよなあ。遅かれ早かれみんな死ぬし。
そう言うところで「ああそうだなぁ・・」と思うようになっているという構成の演劇です。

そして、この文章を書くにあたり、さらにさらにさらに台本をよく読んでみたのですが(いや、書かなくてもよく読めよ)何気無いセリフの一言一言が、実は結構怖い。サブタイトルにした「人間は何を恐れるのか」という言葉も、さらりと中盤で出てくる。これも昨日稽古場で聞いた時は何も思わなかったセリフなんだけれども、今、字で読んでみると「人間は死を恐れるんだなぁ・・・」ということに気がついて「おおーっ」となったり。そんなセリフがあちらこちらにあり、おもしろ演劇中の会話では捉えきれないもんだから、観劇したあとは、台本を購入して、じっくりセリフを読んでみるといいかもしれません。これは、文字で読んだ方がいいと思う。(上のセリフにしても、多分意味ありげに印象に残るように言ったらあかんセリフやと思う)
演劇にしても面白く、読み物としても面白い。「岸田戯曲賞ってのも伊達で出してんじゃないんだなぁ・・・」と思う次第なのであります(当たり前だ。失礼だろ)。

『フレンズ』みたいなシチュエーションコメディ、『ダウントンアビー』的な小気味良い会話、あとベケットが好きな方にはオススメです!
「人の生き死にを笑うなんて、不謹慎だ!」と怒ってしまう方はひょっとすると合わないかもしれません。
ぜひ。

ちなみに、稽古場で私が今一番「なんだかなあ」と思っているのは、共演者に葛井よう子さんと、ヨーロッパ企画の黒木正浩さんがいるんですが、それぞれ「ようこさん」「黒木さん」と呼ばれており、私がすっぽりブラックボックスになってしまっている、ということです。



「黒木さん、ここはセンターで止まりましょう」と演出が言ったとしたら、前後の文脈で「この『黒木』はヨーロッパの黒木さんを指しているな・・・」と察するという。共演者の方の「よう子さんありがとうございます!」のツイッターのつぶやきを見て「いや、私なんもしてへんこれは葛井のよう子さんやな」てなもんです。おまけに私自身が二人を「黒木さん」「よう子ちゃん」って呼ぶことに抵抗が無いという。これ自体がもう私にとっては不条理劇ですよ。