黒木陽子の「私はこんな海外ドラマを見てきた」 vol.4

海外ドラマ大好き人間!略して「海どん」が、彗星小学校のみんなにオススメの海外ドラマを押し付けていくよ!!

vol.4 働かないひとたち

<これまでのお話>
彗星小学校の子どもたちを守るため、やりすぎ演劇講師の海どんを追放しようとした絹枝先生。しかし、海どんの策にはまり、父兄との不倫現場を押さえられ、自宅謹慎処分を受けてしまうのだった。
ーー

絹枝「これからどうなるんだろう…」

  2DKのアパートの窓を開けると星が瞬いている。
  カラフルな座卓の上のスマホが震える。

絹枝「(スマホを取り)もーっ!なん?!たいしたことないっちゃが。・・・あーもう。うるせえうるせえうるせえ。もぉー大丈夫とよ!復職できると!・・・帰りません、かーえーりーまーせん!もう出んからね。お母さん、もー!メール!メールせえ!」

  絹枝、勢いよくスマホをベッドの上に投げつけ、その上に倒れこむ。

絹枝「(つぶやくように)なにもやりたくなーい。なにもやりたくなーあっあっいぇー・・・(叫ぶ)あー!もう!!」

  絹枝、叫ぶと仰向けにねがえりをうつ。

絹枝「今宵の星は・・やけにきらめいて見えまする・・・。絹枝先生の目、今日はちょっと変みたいだ。だってさぁ、いつもはさぁ、星なんて見ないんだ。・・・子どもの頃はね、私、地球は銀河の中心にあるって思ってたんだ。それで、アンドロメダの真ん中にも、きっと地球と同じような星があって、それぞれがみんな特別で・・・夜空に輝くそれぞれが特別なんだ、って」

  手のひらで顔を覆う絹枝先生。そこへ、謎の声が響く。

謎の声「山口さん。太陽系は銀河の中心にはありませんよ」
絹枝「えーっ!」
謎の声「それに、夜空に輝いているのは恒星です。私たちの住む地球のような星は自ら光を発しません。だから…」
絹枝「他の星からは、見えないってこと?!」
謎の声「少なくとも、肉眼では見えないでしょう」
絹枝「そうなんだ…」

謎の声「それを聞いて、びっくりした?知らなくてよかったと思った?」
絹枝「ううん。」
謎の声「ほんとに?」

  音楽が流れる

絹枝「私は、それを知って良かったと思った!!!
地球は特別な、キラキラした存在なんかじゃなくて、普通の、目立たない星だったんだ!だけど、こんなに美しくて素敵なんだ。てことは…」
謎の声「てことは?」
絹枝「てことは、空を見上げて、あの、あの、あの、見えないところに、そんな素敵なものが、いーっぱいつまっているということなんだ!私、そのことを伝えたい!みんなに、伝えたい!空にはそういうワクワクがつまっているんだ、って!輝きのないところに輝きがあるんだ、って!そして、もしかしたら、もしかしたら…!」

  絹枝、ベッドの上に立ち上がる。

絹枝「私の話を聞いて、誰か地球以外の素敵な星をさがしてやろうって思う人がいるかもしれない!!」
海どん「それが、教師になった理由ですか」

  気づくと、海どんが部屋の中にいる(謎の声は海どんだったのだ!)。

絹枝「海どんさん…!な、なぜここに…」
海どん「そんな立派な先生が…父兄と不倫というのは…ちょっとねえ…」

絹枝「!う、海どんさんには関係ないでしょう!」

海どん「ええ。わたしもねぇ、恋愛は自由だと思いますよ。わたしの甥っ子もね、あまり歓迎されない相手と恋に落ちましてね。やめろって言っても聞かないんですよ。やっぱり恋ってのはキラキラ輝いているんですかねぇ。でもねぇ、絹枝先生のお言葉をかりるならば、その、本当に輝いているのは、輝いて見えないところ、お相手の家庭の部分じゃないのかと私なんかは思っちゃうんですけども・・・これは、ちがうんですかねぇー。ねえ先生、教えてくださいよ。」

  海どん。だんだんコロンボ※1)のようになっていく

絹枝「・・・何か、お飲みになります?」
海どん「いいえ。結構です。それじゃ」?

  海どん、去りかけるが立ち止まり

海どん「ああそうそう」
絹枝「なんですか?!」
海どん「これ、奥さんから預かってます。弁護士さんと同席で一度お話しされたいそうで」
絹枝「!」
海どん「それじゃ、私はこれで」

  海どん、今度は本当にドアから出て行く。
  立ちすくむ絹枝先生。

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こりゃもう本当に「どうなっちゃうんだろうな」というところまで追い詰められてしまった絹枝先生。
全部かるく笑い飛ばせたらいいのにね!

そんな絹枝先生へのおすすめ海外ドラマは、これ!


シットコムの名作『フレンズ』だ!

ニューヨークはマンハッタンに住むちょうどいい感じにイケてない6人がなんやかんや繰り広げるコメディ。
好きすぎて何から伝えたらいいのかわからないけれど、とにかく癒されるんです!

離婚したり、失職したり、兄と妹で親に差別されたり、お金がなかったり、友達同士なのに付き合ったり別れたり、実の母親が見つかったり、不妊治療したり、よくよく考えるとけっこう重い出来事が起こるのに、どれも滑稽に見せてくれて、自分のことも「まあ、たいしたことないのかもな…」と思えてくる不思議。

だいたい、出てくる人たちみんな職についてるのに働いてない。コーヒーショップのソファで何かっちゃあくつろいでいる。
「なんで出世しないんだろう?」「そりゃあ、昼間っからコーヒーばかり飲んでるからじゃない?」ってセルフパロディされるほど、働いてない!のです。

まあ、ファンタジーなんですけれど。
でも、一方で真実もあるなぁと思えるんです。脚本の巧さと役者さんの魅力も相まって、どんなに辛い出来事でも、笑える部分や滑稽な部分があって、さらに自分以外の世界までもが悲劇になるわけではない、というところが。
そこに、美しさがあるな、と思えるのです。
(そして、上品というか安心なんです。笑いがエグくない。それを笑ってはいけないでしょう、というところには触れない)

そんなわけで、絹枝先生『フレンズ』みて元気出して!
フィービー※2)だったら、次の日ケロっとして学校に行ってると思うよ!

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※1)『刑事コロンボ』の刑事ですね。みなさんご存知でしょう。最近みてみたら、すごくコロンボ嫌な奴でびっくりしました。犯人に同情しちゃう。あと、たいてい帰りかけて戻って来た時に致命的なことを言う。

※2)フレンズの登場人物。14歳で母親が焼身自殺した後路上生活者に。ヒッピー系のマッサージ師。明るい。そんなフィービーの結婚式はもう、涙、涙よ!

==書ききれない思い==
『フレンズ』ほんまに好きなんです。だからこの後も何度かオススメすると思います。オススメしたいポイントの半分も書けてません!
今回出したのは、次回につながるからなのですよ!