『あなたの知らない三国志の世界』
 第十三回「ユニット美人の三国志とはいったい何だったのか6」

 2013年の5月〜11月にかけて半年かけてやったユニット美人の三国志vol.0〜4。

 この連載では、せっかく半年かけて作ったんだからそのままにしておくのはもったいない。という省エネ精神から、作品について語っていこうと思います。自分で自分の作品解説なんて、どうなんだい、それなら芝居にするなよ…というようなことを書いていきますので、そういうのが嫌な人は読まない方が良いがと思います。

その6:あの壁を壊すのはあなた1
○普通の人
 さて。連載の最初の方で書いたように、このシリーズにはふたつのテーマがあります。ひとつは「複雑な人生から逃げる話」で、もうひとつが「戦争の話」です。四作品目で90分の長さのあるvol.3『あの壁を壊すのはあなた』は、この「戦争」を一番意識した作品になりました。
 シリーズ中で唯一、三国志に登場しない普通の人が主要登場人物として登場します。(リンちゃんとそのお母さん)『三国志』では武将たちのドラマは描かれますが、そうではない普通の人たちのドラマはあまり(というかほぼ)描かれてはいません。圧政や略奪に苦しむか、武将を慕うか、義憤に駆られて立ち上がるか、まあそういったざっくりとした姿のみです。普通の人々は武将たちに「民」という言葉で呼び、都合良く扱われるのみ。
 『三国志』を読んで心がそれほど踊らない理由のひとつは、どうしても自分がここに出てくる名前のある武将にはなれそうにないこと。良くて、劉備の義勇軍の名も無い農民兵のひとりでしょう。黄巾党の乱平定後も、ワイロを知らない劉備につき合って、さんざん城外で待たされたあげく特に褒美もなく、劉備さんに解散を言い渡されて「じゃあ、オラは村へ帰りますだ。お達者で!」とか言ってニコニコ田舎へ帰り、子どもや孫に「劉備さんのところでおじいちゃんは戦ったんだぞ」とか話したりして。
 なので、普通の人たちがどのように戦争に巻き込まれるのか、描きたいなと思いました。そうでないと、戦争がリアルに感じられなかったのです。自分が赤壁の戦いに参加するとしたら、おそらくこういう形だろうな・・という姿を描きたかったのです。

○戦争への過程1
 さて。リンちゃんは母親とともに大富豪・魯粛(ろしゅく)の奴隷になり、そこから抜け出す為に私兵になります。兵隊になることに拒絶反応を示す粥見に、魯粛は「穀物輸送の際の警護だけだ」と言い、リンちゃんの母親も「みんなが作った大切な物を守る。誰かがやらなければならない仕事だわ」と理解するための言葉を吐く。その後、魯粛は呉のアイドル武将周瑜(しゅうゆ)と仲良くなって、周瑜とともに戦争へと向かう。雇い主の方針転換に、一介の兵士は従うよりほかはありません。結果、リンちゃんは赤壁の戦いで戦死するのです。

 「誰かがやらなければならないこと」というスローガンはとても強いな・・・と思います。

 私は、武力でなんとかしようとするのは嫌だな、と思います。自衛隊のイラク派遣時も「危ないところにわざわざ行かんでも・・・輸送警備って言ってても、もし、戦うことになったら戦うんか?そしたらイラクの人に恨まれるやんかいさ!金だけ出しとけ!」と正直なところ思っていました。でも何という情けない意見だ・・・と、一方で思います。そして「お前が行くわけちゃうやろ!ろくに納税してないくせに!」と、言われると「う・・・そうかもしれませんね・・・」と口を閉ざしてしまう。
 そして、おそらく、それが私と戦争の関わり方なのです。

 次回は戦争への過程として描いたアイドル提督魯粛について書こうと思います。