妄想劇場2014年「マコの夏休み(2)」

前回までのあらすじ=====
高校2年生、山田マコ17歳は、夏休みを直前にして、1つ上のバスケ部の先輩である森田真二を明光の森に呼び出し、告白をした。
告白の最中、セミにおしっこをかけられたマコは、「LINEに返事下さい!」と言い捨て、その場からダッシュで帰宅。
それから一週間後、ようやく来た先輩からのLINEの返事は…?
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先輩からのLINEのメッセージを開けないまま、1時間。
スマホの画面には、

morita sinji:おっす。夏バテしてないか?返事おそく…

が、ずっと表示されている。
読むと終わってしまいそうで、既読すると返事をしなくちゃいけないし、開いた後の心境は最悪な状態に違いない。
基本マイナスイメージで行動する私の、最たる状態だ。

「はあ〜〜〜。」と大きなため息を一つ。

なんでこんなに「後悔」してるんだろう。
こんな事で、1週間悩むのは、すごくダメな気がする。
なんか、上手く言えないけど、私は大物にはなれないな。
なんか、大きな事を成し遂げる人って、

「こうしたい!って思った瞬間、行動してしまってるんですよね。」

「そりゃ、私だって悩みますし、逡巡しますよ。次に自分が取れるベストな行動はなんなのか?ってね。」

とか、言ってるもん。
情熱大陸とか出る人は、みんなそんな人たちのような気がするよ。
私はダメだ。
別に情熱大陸に出たい訳じゃないけど。


母「あんた、どうしたん?」

「へ?」

母「元気ないやん。恋か?」

「…。」

母「ええ!恋なん?ちょっと、お父さん!」

「ちょちょ!やめてよ!」

母「あははははっ お父さんは仕事でいません〜。」

「…。もう!」

母「よっしゃ、傷心を癒すために今日はすき焼きにしよか!」

「ちょっと、勝手にふらんといてよ。」

母「あら、そうなん?ほななんでそんな元気ないの?」

「告白してん。」

母「ほう!」

「で、返事が来てん。」

母「…、え? メール?」

「LINE」

母「最近の子は、なんでもLINEやなあ。告白もLINE。色気ないなあ。」

「私にはLINEは色気ムンムンや。世代や世代!」

母「LINEは色気ムンムン…。プププ」

「もー!ええから〜。」

母「で、返事は??」

「見てない。」

母「きも!」

「きもってなによ!」

母「告白して返事しろって言ったくせに、返事みてないって。意味分からんわ。」

「これが、恋や!」

母「よー分からんけど、まあ、何にせよ、さっさと読みなさいよ、LINE。それか宿題するか遊ぶかしなさい。」

「はあ〜、どうしよう。」

母「辛気くさいなあ〜、新聞配ってこ。」

と言い捨てて、母は町内の民だよりの配布に行った。

母の口癖は、「辛気くさい」
テレビ見てても、何してても、つっこみは常に「辛気くさい」
行動のきっかけはつねに「辛気くさ」で始まって、「辛気くさ」終わる。

「はー、辛気くさ、お風呂はいってくるわ。」

こんな感じ。
私は母のこの口癖が、結構好きだ。

17年生きて来て、多分、今が一番辛気くさい。
「はあ〜〜〜。」と大きなため息を一つ。

ペケポン♪

は!LINEの着信音!
ひ〜〜〜〜。

ハナ:まこち〜ん、あてくし暇な

は、ハナからだ…。
先輩からのメッセを開かないように慎重に操作して…

ハナ:まこち〜ん、あてくし暇なので、ガストいこよー。っていうかさ、告白はどうなったんよ!

マコ:ガストで言うわ。30分後に神宮前のとこね。

ハナ:おっっしゃ!

とりあえず、母の指示通り、LINEを読む代わりに遊びに出かけることにした。

かれこれ2時間ほったらかしのLINEのメッセージ。
時間が経てば経つほど、芳醇さが増し、スマホの画面から濃厚な色気臭が漂ってくるようだ。
私には、今、世界で一番、先輩からのLINEメッセージが色気ムンムンだ。

30分後、開封するこの発酵食品のような危険なメッセージは、果たして体に良いものなのか、お腹を壊すだけの腐ったものなのか…。
ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌、お酢、先輩からのLINE。
ああ、先人達よ!
私に勇気を…!!!!

つづく