妄想劇場2014年「マコの夏休み(1)」

ジジジジジジジジジジジジ

部屋の暑さで目が覚めて、セミの大合唱で一日が始まる。
夏休みが始まって1週間。
宿題に全く手が着かず、一日中LINEのチェックばかり。

「はーあ。」

おおきくため息をつく私。
再びお布団に倒れ込む。

"ドッドッドッドッド"

階段を上がってくるお母さんの足音。
母「こら!もう、いつまでだらだらしてんの!宿題するか遊びにいくか、なんか活動しなさい!」

「うーん…」

母「も〜辛気くさい!」

そう、私は一週間辛気くさい。

母「朝ごはん、食べへんねんやったら片付けるからね!」

「たべるーーーー。」

母「ほな、はよー!」

"ドッドッドッドッド"

階段を降りていく母の足音が頭に響く。
思い出したくないのに、ずっとぐるぐるしている。
もう考え過ぎて、はきそうだ。
「うお〜〜〜〜〜!ああ〜〜〜〜もうやだ!!!」
枕で頭を抱える。
そして再び再現がはじまる一週間前の終業式


校長「というようなインターネットにまつわる事件もおこっています。生徒の皆さん、夏休みだからといって開放感に浮かれないように!しっかりと二学期の計画を立てて、その準備のための貴重な一ヶ月であると考えて、しかるべき」

長い校長の話も、今日の私にはありがたい。終業式がおわったら…終わったら…

ハナ「(まこ、まこ、 …おい!まこ!)」

「は!(ああ、ごめん、なに?)」

友達のハナが後ろから声をかけてきた。

ハナ「なにあんた、校長の話、真剣に聞いてんの?」

「(え、いや…、この後のこと考えてたらそれどころじゃないよ…)」

ハナ「(く〜〜〜、恋する乙女だね〜 で、今日、先輩来るの?)」

「(うん、一応、LINEでは、OKって返事きたけど…。)」

ハナ「(ひゃー!一緒にいっていい?)」

「なんでだよ!!」

ハナ「(ちょ、声でかいよ!)」

「(ああ、ごめん、っていうか絶対くんなよ!)」

ハナ「(つまんなーい。応援したい〜。)」

「(おもしろがってるだけでしょ。)」

ハナ「(まあね。ひゃひゃ)」

ひゃひゃじゃねーわ。人の気も知らないで…。
ああ、この後、私は告白をする、多分。
いや、する。するんだ真子!
ずっと好きだった先輩。

夏休み前に告白して、もし振られても一ヶ月会わなくて済む。
そんな消極的な理由で、今日告白することを決めた。
基本マイナスイメージで行動する私の、最大級の前向き行動だ。


校長「と、いうことで、すばらしい一ヶ月を過ごしてください。これで終業式を終わります。一回クラスに帰って、夏休みの手引をもらって/」

終業式が終わってしまった…。

ハナ「あー、だるかったーーー。よし!こっからが今日の本番や!まこ!」

「ううう、ハナ、やっぱしやめよっかな。」

ハナ「ダメダメダメ!だって先輩呼び出しちゃったんでしょ?」

「予定が悪くなったって連絡す/」

ハナ「いくべ!体育館の裏へ!」

「いや、体育館じゃなくって、明光の森やから。」

ハナ「え!森なん?!告白っていったら体育館の裏やろ。」

「だって、ベタで恥ずかしいやん…。」

ハナ「しかも森、虫多いしさ〜、ハナ、蚊に噛まれるのいやなんやけどー。」

「だから来なくていいって。」

ハナ「ちぇ、ばれたか。」

明光の森とは、明光高校の運動場の一角にある、半径5mほどの「森」である。
奈良の田舎の私の通う高校は、周りが田んぼ一色。
近くに森があった方がいいだろうということで、10年前くらいに作られたそうなんだけど、特に生徒から人気のスポットでも無く、管理も適当で、野良猫のお家化している。
とにかく人に見られたくない。でもメールや電話で告白するのはちょっと…という、私の最大級の前向き行動なのだ。

「はーあ。」

ハナ「なにため息ついてんだよ!ダメだと思ったらダメになるよー。」

「うーん…。」

ハナ「告白楽しいよ!頑張れよ!」

背中をバシっと叩かれて、私は森に向う。
1年の夏、バスケ部の合宿で、カレーをテキパキ作っている先輩に恋をしてしまった私。
バスケじゃないんだ…と自分でつっこみながら(いや、勿論バスケも上手いのよ)、
あれから1年、練習の時だけ顔を合わせるだけで、この一年で会話した事といえば、

先輩「これ誰のタオル?」

「あ、私です、すみません!」

と、

先輩「バッシュ新しいやん。」

「そうなんです!昨日買ったんです。」

先輩「慣れるまで気をつけろよ。」

くらいで…。だけど、1日中、先輩の顔ばかり思い浮かべてしまう。
もう私の頭の中では、いっぱい会話をしているし、いっぱい一緒にいるようなそんな感覚なのだ。
なんかの本に書いてあった、「好きになるということは、何をしててもその人の事が頭から離れない。何を見ても、その人と関連付けてしまう。」と。
私は、先輩が好きなんだ。

だけど、なんで、告白するんだ。
好きならそれだけでいいのに、どうしてそれを本人に伝えたくなるんだろう。
一番好きな人に、私が一番伝えたいことを伝えたい。

「なんでや…。なんでそんなことをしたくなるんや。」

独り言を言いながら、チャットモンチーのアルバム「告白」を聞きながら、森に向う。

とりあえず、森に行ったらシミュレーションや。
先輩が向こうから歩いて来るのをどのタイミングで気づくか。
いや、草とか花とか見てるふりして、先輩に声をかけられて初めて気がつく。みたいな感じにした方がいいかもな。
それから、、あれ、あの後ろ姿は……

(はーーー!!!!既に先輩が居るー!!!!!!!)


なんてことだ!違う、予定が違う!まだ準備出来てないのに!どうしようどうしようどうしよう
いや、今更逡巡しても仕方ない。
あーでもめっちゃ汗かいてて、髪の毛がべたべたや。あーもー

先輩「おっすっ」

(うおーーーー気づかれてしまったああああああ〜〜〜〜〜!)

「あ、ども!めっちゃ待ちました?!すみません!」

先輩「大丈夫。」

(うー、言葉数少ない!!)

「あ。それは良かった。」

… 





先輩「えーっと。」

「あのですね!」

先輩「あ、はい。」

「まあ、あの大体お察しだと思うんですけど。」

先輩「…。」

「好きなんです。」

先輩「…ああ。」




(ああ。ってどうしよう、何か言わなければ!!!!)
「去年の合宿の時から、あの、カレー作ってる先輩見た時から、なんかずっと。(ああ違う、カレーの話しは内緒だったのに)」

先輩「カレー?」

「あ、なんか まあ、そうです。すみません。」

先輩「えーっと、俺は、」

その時、私の顔に何かが降って来た。

「冷た…、雨?」

先輩「いや、雨はふってないんじゃない? 吉田、それセミのおしっこじゃない…?」

「えええ! うわああ!」

先輩「あはは 大丈夫やって、なんも無いし。」

最悪だ。
人生初告白で、セミにおしっこをかけられてしまう、高2の女子高生。

「あの、とりあえず、私、帰ります!」

先輩「え。あ、うん、分かった。」

「えっと、LINE!LINEに返事下さい!すみません、じゃあ!」

死にたい。
恥ずかしい。
もう嫌だ!!!


ハナ "どうやった?????告白出来た?!”

マコ ”告白した後、セミにおしっこかけられた。死にたい。”

ハナ ”うわーーー、それもう死んでます。 で、返事は?”

マコ ”聞いてない。LINEで返事待ち。”

ハナ ”ありゃりゃ、とりあえずお疲れ!頑張ったね!今度から森はやめたほうがいい。”

マコ ”だな。”


あれから1週間。
先輩からの返事はまだ来ない。
ふられたかなーーーー。

スッキリの占いを見ながら食パンをかじる。
11月生まれは…8位。
へ、中途半端だな。

24時間テレビの特集をしてる。
今年はTOKIOの城島が走るらしい。

「は〜〜〜、どうでもええわい!」

ペケポン♪

は!LINEの着信音!
スマホに走る私。

画面を見る。
先輩からだ!!!!!

morita sinji:おっす。夏バテしてないか?返事おそく…


うわあああ〜〜〜
どうしよう、この続きを見るのか、私、見るのか、見るのか!!!


(つづく)