おしゃれ雑誌編集部! 〜演劇人スタイル〜
vol.30「妄想劇場2013」第二話

演劇人、紙本明子が欲しい物や興味のあるもの、人、あれこれをテーマに、なるべく背伸びせず、
演劇人の為のおしゃれマガジンを作ります。

妄想が大好きなわたくし紙本の妄想小説でございます。
第一話を読み返してみると、文章がめちゃくちゃやな…とはずかしくなりましたね!
でも書きますよ!書きたいから!
どうぞ最後まで読んで下さい、読んでほしいから!

その2「竹田と吉村」

前川「いよいよイタリア戦ですね〜」
竹田「…え?」

午後、パソコン画面をぼんやり見ていたら、後輩の声をかけてきた。

「サッカーっすよ!竹田さん、興味ないんすか?」
「あ、ああ、いや、興味ないわけじゃないけど。」
「今晩、佐島さんたちとスポーツバー行くんすけど…」
「ああ…、でも、いいよ…ありがとう。」
「そっすか、チャス。」

お昼ごはんを食べ過ぎたのか、ちょっとウトウトしかけてた。
こんな私でも一応、気をつかってくれる、良く出来た後輩だ。
だから、まあ、仕事でミスられても、怒れないのだけど。

「竹田さんってほんと謎!何が楽しくって生きてるんだろう。」

みんなの心の声が聞こえてくる。
いや、まあ、実際、言われたんだけれども。
マンガみたいに、トイレで噂されてたんだけれども。

「噂では、井上課長と出来てるらしいよ。」
「えー!マジで!?ありえん!」

ほんとありえない。
33歳で。友達もいなくて。
その上、上司の不倫相手。
そんな女、何が楽しくて生きてるのか、私だって分からない。
3ヶ月前に噂になって、2ヶ月前の新歓飲み会の席で不倫解消された。

「竹田さん、なんか変な噂になってるけど、なんかごめんな!で、彼氏はいるの?」

「…いえ、居ませんけど。」

「課長〜、それセクハラになっちゃいますよー!」

変な空気が流れる間もなく後輩のつっこみ。
ほんと良く出来た後輩だ。
新入社員には、彼氏が居ない物静かな33歳独身女の竹田さん。


前川「あれー?先輩〜、このデータ、変な空白あるんですけど。」

隣りで仕事はあまり良く出来ない後輩が例のごとく甘えてくる。
ひたすらクライアントからくる広告データをチェックして製本部署に送信。
これがあたしの仕事。

竹田「電話して確認して。多分リンク切れてるから、入稿し直してもらわんと。」

素人さんが入稿してくるチラシデータは、本当にめんどくさい。
劇団?なのかお芝居やってる人たちのなんて特に。
電話の切り際「よかったら観に来て下さい!」とか言ってくる。
その前にちゃんと入稿してくれよ…。

勇んでスポーツバーへ行く同僚達を見送り、気がつけば20時。
会社を出たら、小雨が降っていた。
そうか、昨日から関西は梅雨入りだった。

バス、京阪を乗り継いで、最寄り駅の元田中に着いた時には、雨は結構などしゃぶりになっていた。
3分様子みて走って帰ろう…と思った矢先、突如後ろから男性に声をかけられた。

「傘、無いんですか?」
「ひゃ!」

あまりに突然で、変な声が出た。

「あは、すみません驚かせちゃった。」
「いえっ、すみません…」
「あの、僕、傘二つ持ってるんでよかったら…」
「あ、いや、でも大丈夫です、家近くなんで」
「でも、ビニール傘やし、差し上げますし」
「いや、それはちょっと」
「家にビニール傘6本くらいあるんで、もらってもらえると助かります。」
「…。あはは、じゃあ。」
「はい、どうぞ。どっち方面ですか?」

折りたたみ傘を持っていたのに、うっかりコンビニで買ってしまったらしい。
仕事の転勤で京都に来て3年目、京都が大好きだそうだ。
なんて話を聞きながら、東鞍馬口まで歩いた。

「じゃあ、私こっちなので。」
「あ、すみません!僕一方的にしゃべっちゃった。」
「傘、ほんとにありがとうございました。」
「いえいえ、きれいな人にもってもらって、傘も喜びますよ。」
「…、ああ」
「じゃ!」

その会話をちらっと聞いていたのか、私を追い抜き様、おじいさんに「よ、べっぴんさん。」と声をかけられた。

汗、出た。
あー、もう、なんだもう「ああ」って。
もっとなんか「あはは!何をおっしゃいますやら!」とか言えばよかった。
ううう、もう!

その後3日間、雨は降り続いた。
なんか嬉しくて、私はビニール傘を使ってた。
会えるかもしれないとか思ったり、きれいな人って言葉を思い出したり。
転勤で3年目ってことは、結婚してないのかな。でも確実に年下やな。
やべ、何考えてるんや。

バス、京阪を乗り継いで、叡山電車に乗る時、少しだけそわそわして、周りを見回す。
ちょっと楽しい。会ったところで何を話したらいいのか分からないけど。
隣の車両をなんとなく見ていると、、、
彼がいた、、、ずぶぬれで。

「いや、今日に限って傘を忘れて…、助かりました!」

あいあい傘って言うのよね…
嬉しいっていうか、ちょっと緊張する。とかやめてよ!自分!33歳!

福岡出身らしく、京都の博多ラーメンだけは許せないそうだ。
「ラーメン好きですか?」
「え、ああ、まあ結構食べます。」
「今度、ラーメンいきません?」
「ああ、ぜひ。」
「京都もラーメン、美味しいですよね!あ、僕、吉村っていいます。」
「竹田です。」
「竹田さん。なるほど。」

何が、なるほど。なのか。
私が無口やから、気をつかわせてしまってるなと思いながら、今度、ラーメンに行く約束をした。
こういうのって、久しぶりだな。
正直に言うと、すごく、嬉しい。

東鞍馬口で反対方向に別れる。

「じゃあ、ここで。今日はたすかりました!」
「あ、大丈夫?雨?私すぐそこやねんけど」
「僕もすぐそこのマンションなんで。じゃあ、また次はラーメンで!」
「あ、うん。」
「そうだ、連絡先!」
「あ、そうか。」
「交換してもいいですか?」
「もちろん。」
「ソフトバンクですか?」
「あ、私au」
「じゃあ、えっとLINEやってます?」
「あ、やってない…。」
「おっと、なるほど。じゃあ、とりあえず番号を。」

気を使わせてしまった。LINEってなんか苦手なんだよな…。
雨の中、小さなビニール傘の中で、連絡先を交換する。
体半分びしょぬれで意味ない傘。

「じゃあ。また連絡します。」
「はい。」

手を振って別れた。
二、三歩あるいたところで、「あ!」と声が聞こえた。
振り返ると、彼がこちらに走ってくる。なんだろう、なんだろう。

「そうだ、もしよかったら、、、」
かばんをがさごそ。
「来週なんですけど」
と一枚のチラシを渡された。

=劇団トマト煮込み 旗揚げ公演! 熱海殺人事件=

「…劇団?」
「最近入ったばっかりで、僕ちょろっとしか出てないんですけど、もしよかったら、観に来て下さい!」
「…、なるほど。」
いきなりテンションが下がった。
なんだろう、このがっかり感。

つづく。