妄想劇場ーその6ー


何を食べたか覚えていない。
頭の上で、静香とポールの話しが繰り広げられていた。
同級生の出来ちゃった結婚の話しやら、元担任の先生が入院したなどの話しがされていたように思う。
私は、ニコニコしてその話しを聞いているつもりでいたし、 二人とも気にせず話しをしていたので、きっと大丈夫だったのだと思う。

昨日何度も見た鏡の中の自分が、とてもむなしい。
は〜、どんな事を想像していたんやっけ。
少なくともこんな状況は予想していなかったことは確かなんやけど。

「うわ。もうこんな時間やん!」
「えっ」

時計を見ると、3分で3講目が始まろうとしていた。
今日は後期初日なので、実習の専攻を決める日。
教室に全員集合し説明などを受けないといかない。
めんどくさい日なのだ。

「ほな信ちゃんまたね!」と静香をにっこりと笑う。
「うん。また!」ポールが更なる笑顔で答える。
「紙本さんも。」

「あ、ああうん。じゃ〜」
紙本さん も。か。
いやいや、もういいじゃないか!
一人で想像してしまっていただけで、別に哀しいことじゃない!はず・・・。

「あーちゃん、急がな!こっからやったら走っても3分はかかるよ!」
「ああ、ほんまやな!急ごう〜」

完全にテンションが下がってしまった。
陶芸科までの道のりがとても遠く、前を走る静香の後ろ姿を見ながら、 ああ、これは私と静香の全ての関係をきっとあらわしているのだ・・・。と、 文学的な心境に陥りながら、そんなむなしい気分を振り払うかのう様にダッシュしていた。

「ああ、来た来た。初日くらいはきちっと来なさいよ。」
森下先生(年齢不詳 未婚)が出席確認をしていた。
おそらく30代後半と思われる彼女は、彼氏がいそうな気配もない

ああ、ほんまに、初日からなんだかツイてない・・・。

ピロロ・・・
メール着信音がなった。
「携帯は、マナーモードにしといてよ〜。」
森下がすかさずつっこんでくる。
「あ、すんません」

メールの差し出し人は、《鮫島信吾》
う!!!!!!

ドキドキしている・・・。う〜!
《さっきはゴメン!まさか静香がいるとは思わんかったよー。
なんか高校の時の話しばっかりしてしまってゴメンね。退屈やった?また今度お昼ご飯二人で食べようね!》

ひえ〜、男子からこんな風にメールが来たことなんて初めてなんじゃないだろうか?いや、絶対初めてなんやけど〜! 思わず静香の顔を見る。

ななな、なんて返事を返したらいいのやら、ああ!助けて〜!

「紙本さん?」
「え」
「器(うつわ)専攻でええのん?」
専攻希望別で、席を移動していたらしい。
メールに夢中で気がつかないなんて、少女マンガか私は。。。

「あ、いえ、あっとクレイワークに行きます。」
「ほな、席移動しなはれ。」
「あ、すんません。」

「紙本さん、すんませんの前に、あ っていれるとおばはんみたいよ。」
と森下に言われた、女子たちが笑う。

お、お、お前に言われたないんじゃ〜!
と思いながら、へらへらと笑う私。
陶芸科は9割女子。男子は3人。しかもどうでもいい男子なので、みんなの笑いものになったところで、 まー、べつに良いねんけど。。

メール、どうやってかえそうか・・・。
すんなりメールを打てない自分が、どうも森下とかぶってしまう。。。


<つづく。>