妄想劇場 −その2−


大学の夏休みはあほみたいに長い。
7月中旬から9月末までのゴールデンバケーション。

「あ〜あ、高い授業料払ってんのに・・・。」と愚痴る母親をしり目に、
実家でダラダラとアイスクリームを食べる毎日。
せっかくバイトを休んで実家に帰ってきたのに、、、くそう。
インドア派の私には、永い夏休みは永ーいお正月みたいなもので、
予定をたてて旅行に行く。なんていう行動力も計画性も無く、
だからといって夏休みが苦痛でもないんだけれど。
けど、遊びに行く予定もお金もないし、、、。
近所の市営図書館でもいくか。

夏休みに限らず、図書館は高齢者の集会所になっている。
小さな図書館なので、新聞を読むおじさまでいつも満席だ。
匂いも独特のものがある。

図書館の宗教コーナーの角、
一席だけ設けてあるイスに座ってサスペンスの小説を読む。
今年の夏休みの過ごし方と化していた。

「彼氏と屋久島に行ってさ〜!超感動した〜!
これ屋久島で取れる塩なんだけど、すっごい美味しいんだよ〜。」

「ありがと〜。私は奈良の市営図書館で、〈沙粧妙子 最後の事件〉読破したよ〜!
めっちゃ面白くてさ〜。これ、読書感想文〜」

なわけねーだろ!

ストライプマン(と呼んでいる)と学校の図書館で出会って3週間。
〈出会う〉という程のものでも無い!とすぐさま自分に突っ込みを入れる。
1週間前に、みょうがの本を返却しに行った。
2週間の間、何度か図書館に行こうと思ったけれど、いちいち気にしている自分が気持ちわるく、
なにを考えてるんだ!となぜか我慢をして、余計に意識をして今日に至る。
けど、会ったのは後にも先にもあの日だけ。

ばからしい。
と、突っ立ったままぶつぶつ独り言を言っていると
「ねーちゃん、ここどうぞ。」とおじさんに席を譲ってもらってしまった。

円卓の机、両端は勿論おじさま2人・・・。

遠慮をする私に、
「もうすぐ帰るから、気にせんでええよ。はい、座りーな。」
と強行に進められてしまい、座るしかなかった。

例えば、今のおじさんとストライプマン、出会いの種類は一緒やん。
ストライプのシャツか、イトーヨーカドーかの違いに過ぎないのよっ。

ああ、こんなシチュエーション。大学の友達には勿論、地元の友達にも見られたくない。
両端におじさん、私は沙粧妙子を読む。

21歳の夏休み、私は何をやってるんだ。
背中を丸め、肩をすぼめながら、私は本を読んでいた。
沙粧妙子は面白い。
両脇おじさまというシチュエーションを忘れるほど、熱中していた。

「あれ?」

円卓の向う側から、心臓にドキリとする声が聞こえる。
ストライプマンと話をしたのは、三言だけ。
勿論どんな内容だったかは覚えている。
あの日以来、なんどもなんども、自分の中で繰り返した会話。

でも、声はさすがに覚えていない、特別特徴のある声では無かったと思うし、
そんなことを意識するほど声フェチでは無いし。

というような事が0,3秒程で頭の中をかけめぐり、私はふっと顔を上げた。

「あ、やっぱり。」

彼は私を覚えていた。

一番会いたくて、今一番会いたくなったかも知れない人。
どうしよう!
覚えてないふりをするのか?
なんとか思い出すようなふりをすればいいのか?
めちゃめちゃ覚えているふりをするのか?

どうすればいいのか、、、ぽかんとする私。

「造形大の人ですよね?」

「はあ、、。」

「みょうがの。」

「そ、そうです!こんにちわ!」

ストライプマンは、ボーダーマンに変身していた。

つづく。