『ダインナミクス』

虚弱と呼ばれている都市があった。
誰に呼ばれているかというと一部の人間である。
何の一部かというと、ダインナミクス派と呼ばれる人たちの一部である。
ダインナミクス派というのはいわゆる業界用語でいうところの「逆立ち」に長けた人たちのことをいう。
では何の業界かというとそれは各々で調べてみると、広がりが持てるのではないかと私は思う。
業界などと範囲を狭めずに広義の意味でとらえれば大体の人は最終的に皆ダインナミクス派になるのだから、わからない人は自分のことだと思ってもらえれば多分間違いはない。
つまり貴方はその都市を虚弱と呼んでいたのだ。
虚弱に住む人たちはみんな笑顔で暮らしていた。
おいしそうではない食事を笑顔で食べ、
清潔とは思えない服を着て笑顔で過ごし、
雨も風もふせげそうにない家に笑顔で暮らしていた。
「虚弱は巨悪な人間に支配されている」というのは誰もが知るところだ。
その巨悪の正体は誰にもわからないのだから心底恐ろしいのだ。
「だから笑顔なのだ」
と、横山さんは言う。
横山さんは近所では評判のテレビばっかり見ているおじさんで有名だ。
横山さんは難しい顔をして言うのだ。
「だから笑顔なのだ」
と。
その言葉は誰にも届かない。
横山さんの六畳一間のワンルームに響き、やがて溶けていく。
だから誰も知らない。