『なぜだろう、こんな気持ち』

俺はシチューを煮込むはずだったのだ。
真っ赤なニンジンを3本買ったし、
ゴツゴツのジャガイモを6個も買ったし、
ブリンッとした8本入りウインナーも買った。
玉ねぎ3個、鳥もも肉300グラム、ブロッコリー1房を買った時点で
もう一人の自分が
「もういいだろう」
と言ったけれど、
当時の私は・・・もう20年も前か。
34歳の夏だった。
調子に乗っていた時期だ。
だからだろう。
私はTシャツを脱いでランニングシャツ一丁になったのだ。
スーパーで
盛り上がる自分の気分に任せていたらランニングシャツ一丁に、いつのまにかなっていたのだ。
脱ぎ捨てたTシャツは買い物カゴの中に入れて、私は再び目に付いたゴツゴツのジャガイモをさらに7個買い物カゴの中に入れた。
そしてレジに向かった。
買いすぎていたのは明らかだったが仕方がない。
レジの店員さんは迷惑そうにTシャツを取り出していた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった私は、
「申し訳ないです!」
と謝った。
そしてさらに申し訳なかったのは
お金が足りなかった事だ。
財布の中に1,300円しか入っていなかったのだ。
申し訳ないのと恥ずかしいのとで胸がいっぱいになり、
なんだか、
私は変な気持ちになってきていたのだ。
これは、もしかしたらエロい気持ちと言っても過言ではないのではないか。
そうも思ったけどこんな時にエロい気持ちになるはずがない。
私は申し訳ないのだ。
そこに恥ずかしさの気持ちをミックスすると・・・こんな気持ちになるのか。
知らなかった。
世の中は知らないことばかりだ。