『ガンバレ』

たまっていた電気代を3ヶ月分支払ったら、
涙がこぼれた。

こんな夜中にコンビニのATMの前で、どうにも抑えられなくなったのだ。
周りのお客さんも店員さんも、チラチラと私を見ている。
恥ずかしい。
夜中(明け方といっても良い時間帯だろう)、嗚咽をこぼしながら立ち尽くし涙に濡れるおじさんを見るおじさんの群れ。
やがて文房具を睨んでいたおじさんも、
お弁当と缶ビールを抱えたおじさんも、
そんなハプニングなど無かった事にして再びレジに並び始めるだろう。
涙は止まらないのだ、それまでのほんの数十秒間はこの時間を過ごそう。
そう決意を固めても当然のように新たなお客さんが入店してくる。
眠らない街。
またおじさんだ。
そして、結果的にはそこからさらに7連続おじさんの入店が続く事になる。
どのおじさんも群れの中に入って、
泣いている私を見守り、動かない。
もしかしたらATMを皆さん使いたいのかもしれないと思ってATMの前から少し移動したのだけれど、
どうやら関係ないようだ。
「ガンバレ」
と、一人の濡れそぼったとしか形容できない細いおじさんが突然大きな声を出した。
私はびっくりしたけれど、
周りのおじさんたちは皆当然のような顔をして、私を見ている。
全員がだ。
私はその時点でもう恐ろしかった。
どういう状況なのかさっぱり把握できない。

おじさんたちの表情も形容できない。

わからない事がこんなに恐ろしいとは。

私は「わあああああああ」

と大きな声を出してそこから走って逃げ出した。
つもりだった。
気持ちとは裏腹に、
私は濡れそぼった細いおじさんの胸に飛び込んでいたのだ。
おじさんは、湿っていた。
そして、あたたかかった。