『なけなしの約束』

1センチ5ミリの男が現れました。

「ありがとうございます。ようやく来てくれたのですね」

出会った時は平静を装いつつもそう挨拶をしていましたが、その実、胸の内は記憶にないぐらいジンジンしていました。
泣きはしませんでしたが、あともう2年出会いを待たされていたら泣いていたでしょう。

(※2年というのはしかし根拠がなく単なる思いつきです。
こういう時は2、3年と書いたほうが良いのでしょうが私はそういう男なのです。
あやふやな情報の時でも言い切ってしまいたい男な のです。)

1センチ5ミリの男とお会いしたいと宣言して、
もう10年になります。
当時みんなは拍手をおくってくれましたが、
私は知っています。
その時みんな真顔だったということを。
常識では拍手をする時は笑顔、
もしくは紅潮した表情、
というのが私の中の常識です。
真顔はありえません。
真顔など拍手であって拍手ではないでしょう。

いえ、
恨み言はよしましょう。
とにかく私の想いは誰からも歓迎されていない
という事はその時から知っていました。

自分ひとりのチカラではやはり10年はかかってしまいます。
小さく、遠い存在のその男 が。
目の前に現れ、近くなっても、思っていたよりも小さい男でした。

10年前、1センチ5ミリの男とお会いしたいと思っていた動機ももう忘れてこそいませんが、その実どうでも良くはなっているのが本当のところです。

それでも嬉しい。
それでも嬉しいことが私にはとても嬉しかったのです。

ありがとうございました。