『三島くん』

「大根を買ってすぐに捨てた時の話をしようぜ」
と、三島くんが言い出すと、みんなのテンションが一気に上がった。
「7ヶ月ぶりだぜ」
という声も聞こえてくる。
そうなのか。
と私などは単純に驚いている。
それも色んな種類の驚きだ。
まず、こんな話題で、とはやはり思う。
いやもちろん、三島くんが提案したからこそこの話題がここまで盛り上がっているのだろう、それはわかる。
この盛り上がりは「話題」というコンテンツだけの力ではない。三島くんありきなのだろう。
それにしてもそんな魅力ある話題とは思えなかったが、ここでそう思っているのはどうも私だけのようなのだ。
不思議であると同時に恐い。
理解できない興奮はやはり怖い。
なにより私の聞いたあの声だ。
「7ヶ月ぶりだぜ」
というのは完全にもうこの話題を待ち望んでいる人の意見ではないか。
それもこの声を発した人の感情は、私の感じる限り、このグループ全体の感情なのだ。
グループ全体の感情が漏れて、その声となって発せられたように思う。
なんなのだろうか。七ヶ月ぶりということは、おそらく過去この大根の話をしたことがあるのではないだろうか。
ならば、と思う。
その時にその話は完結しなかったのだろうか。
そこで終われないほどの話ではないように思う。

わたしはこの違和感を表明することを今、とても恐れている。
だが、同じ想いを抱いているように装うのもこの話題は難易度が高すぎる。
立ち上がり、座り、私は息を飲み込んだ。
決断をせねばならない。
まもなく、息せき切って三島くんの友達が私の家のドアをノックするだろう。