『なんだろうか、もしかしたら』

奥から聞こえてくるこの音をなんととらえよう。
「アタタカイ」
というこの音は声だろうか。
迷っていた。
いや、焦っていたのか。
混乱だろうか。
聞こえてくる音。
あるいは声、
のような、もの。
なのだ。
「ここはお風呂場です」
口に出して自分の今いる場所を言ってみるのは、
ドーナツを、
ふとした拍子に思い出すからだ。
今はドーナツなど関係がない。
そんな時間ではない。
関係はない。
Gパンの右ポケットにはドーナツが入っている事は入っている。
入っているし、それが中でモロモロと崩れてくるので早く食べなければ、とも思う。
いや 、食べる前に早くポケットから出さなくては、とも思う。
いや、そもそもなぜポケットなんかに入れたのか、とも思う。
いや、ポケットには入れててもいいけどポリ袋なりには入れるべきだった、生はないな、とも思う。
やがて。
何事にも、と思う。
確認が必要なのだ。
そう。
そうだ。
必要なのはドーナツのことではなく、
今、自分が、ここで、何をするべきかということだ。
だから言った。
発言をした。
大きな声だったと自分でも思う。
だから、かもしれない。

「ここはお風呂場ではありません」

と言われた。
これは何かというと、意見というものだ。
世間というものの意見なのだろう。
はっきりとではないが比較的には、はっきりと言われた。
それならば、存分にドーナツを思い出すべきなのだろうか。
私は、それが恐い。

奥から聞こえてくるこの音をなんととらえよう。