「思い出したくない出来事」

昼下がりのそこは公園でした。
ワキ毛を伸ばしたり縮ませたりして、遊んでいる伯爵らしき人がいました。
そしてその横には伯爵婦人らしき人もいらっしゃいます。
伯爵婦人は伯爵のワキ毛が伸びる度に大変な勢いで拍手をして盛り上げます。縮ませる時などは拍手に加えて大きな感嘆の声が上がったりしました。

その周りを取り囲む人たちはそんな二人の様子を静かにながめております。
私もおりました。
久子もおりました。
久子は私の別れた奥さんです。
もうすでに離婚に向けて話は進みはじめており、そんな私の、いえ恐らくは、私たちの心中に伯爵のこのワキ毛芸はなんだかいてもたってもいられなくなる物だったのです。

「ほがーーー」

気がついたら上半身の衣服を脱ぎ捨て、伯爵の前に叫びながら躍り出ていました。
私にだって伸ばせられるし縮ませられる。
そんな一心でした。
そして、やはりどうしても・・・久子の視線も感じておりました。

私にとって。
私の人生にとって。
おそらくはピークを迎えた、そして人生を学んだ、その瞬間でありました。