「それぞれの事情」


ジルメシアン田中さんは
パン屋で働いているおじさんだ。
泣きながらパン屋で働いているのだ。
ジルメシアン田中さんは、
パン屋で働くことが心の底から嫌で嫌でしょうがないという。
いや、正確にいうと、
「この町のパン屋」
か。
この町のパン屋は他のお店とは違って明らかにヌルヌルしているし、
べちょっとしている。
何がというわけではなく、全体的に。
パンもそうだし、トレイもトングもオーナーの人間性も、お店の雰囲気も、
とにかく全てだ。
ジルメシアン田中さんはジルメシアンと名乗るだけあって、今までずっとジルメシアンな感じで暮らしていたのだ。
それが急になら、
やっぱり慣れるまでは辛いのだろう。

ではなぜ他の場所で働かないのかというと、
給料が割にあわないぐらい良いのだそうだ。

月給で35万円。

週6日間、
10:00〜17:00まで泣きながらすごして、
しかし35万円もらえるのだ!

だったら同情はできないし、
したくないし、
むしろ反感さえ覚えてしまう。

泣くな、それぐらいで。
いい大人が。

ジルメシアン田中ってなんなんだと、言ってやりたくなるものだ。