「俺のうどんはここにある。お前のうどんはどこにある?」

中学、高校、大学と私はずっとうどん部に属しておりまして、高校の時分にはキャプテンもつとめていました。
小さい頃から私はコンプレックスの塊でありまして、
不細工。
勉強ができない。
スポーツもできない。
かといって面白い人間でもない。
そんな私でありましたが、唯一うどんだけは人並みに、いえ、それ以上にできたのです。
中学生になってうどん部に入って
「かけうどん」
から始め、私は普通の人ならば1年間はかかるといわれるところをわずか半年で、
「しっぽくうどん」
までかけあがることができたのでした。
私の人生においてこのようなことはこの時が初めてで、またその後もありません。

『他人より優れている』

この言葉の持つ意味のなんと素晴らしいことか!

何かしらにつけ人並み以下であった私が、幸運にも10代にしてそれに出会えたのでした。

どれほど人生に安心したか!

「きつねうどん」
「たぬきうどん」
「きざみきつねうどん」
「月見うどん」
「わかめうどん」
「天ぷらうどん」
たしかに全部おいしかったけれど私はそれらを半年足らずで全て乗り越えることができたのです。
練習も試合もなにもかもが楽しくて仕方がありませんでした。
うどん部での時間が最も私に生を実感させてくれたのでした。

高校生活最後の大会では私は、それまで高校生の間ではあまり類のなかった
「にしんうどん」
に挑みました。
にしんといえばやはりそばの方が合うだろうという大方の予想をくつがえし、私はこの「にしんうどん」を大変おいしく食べたのでした!
残念ながらそれはしかし当時のうどん界の間ではあまり評価の対象にはならずに、全国大会への切符は逃してしまいましたが、私は負け惜しみでもなんでもなく事実としてハッキリと言えます。
「にしんうどんはうまい」と。
ですから後悔などありません。

ああ、またうどんが食べたくなってきた。