「美味しかったせいで」

ぼくは、美味しかったのです。
その美味しさは、40年間生きてきていても稀な美味しさでありました。
パンフレットをしばらくの間握りしめていて、気付いた時にはもうそのパンフレットはクチャクチャになってしまっていたぐらいです。

興奮していた自分が悪いのだけれども、とにかくぼくはそのパンフレットがとても気に入っていたので、至極残念に思いました。

まさかこの定食屋のソーセージ定食が、私の味覚のど真ん中をとらえることになるなどとは夢にも思わず、たしかに不意をつかれた形にはなりましたが。

たかがソーセージ

正直そう思っていたのです。

たかがソーセージ、しかし、されどソーセージだったのです。

おまけに、お気に入りのパンフレットなど、普段は手に持つ事が少ないので、私はついうっかりしてしまったのであります。

「悲しい」

ぼくは思ったことを口にしました。

それから。

ぼくは思った事をすぐ口にする人間になってしまい、いくつかの手痛い目に合うようになったのです。