「ぼくとお芋さん」



お芋さん

お芋さん

ぼくは今からあなたを

ムシャリムシャリと食べようと思っているわけなのですが

その前にまずくつ下を履きなさい

という母の声が聞こえてきました

けれど

くつ下を履いたところでどうなるものか

ぼくはお母さんの言葉には無視をすることにして

お芋さん

あなたを食べようと思っているわけなのですが

ちょっと待った

じゃあその前にせめて下着は履いてくれ

という母の声がやっぱり聞こえてきたのです

けれど

今さら局部を隠したところでどうなるものか

ぼくはお母さんの言葉には無視をすることにして

お芋さん

あなたをムシャリムシャリと食べようと思っているわけなのですが

わかった

ならばせめて床をホウキで掃いてくれ

という母の声がどうしてもやはり聞こえてくるのです

けれど

今さら部屋を掃除したところでどうなるものか

ぼくはお母さんの言葉には無視をすることにして

お芋さん

あなたとの時を楽しみたいと思っているわけなのですが

案の定

じゃあこうしよう

頼むからせめてそのヌルヌルの身体は拭いてくれ

という母の声が聞こえてきたのでありました

けれど

今さら身体がヌルヌルでなくなったところでどうなるものか

母に抱きしめられなくなるだけではないか

人から抱きしめられなくなるだけではないか

ぼくは54歳だ

もう母に

人に抱きしめられなくても平気な歳さ

それよりもぼくはお芋さんが食べたいのだ

悔いはないさ

お芋さん

ああ

お芋さん

ぼくは今からあなたを

ムシャリムシャリと食べようと思っているのさ

この気持ち

誰にも止められやしないのさ

ただ一つの不安は

ぼくの身体は何でこんなにヌルヌルしてるのかな

ということぐらいなのさ

お芋さん

ああ

お芋さん