「小学生当時」


小学生の時に、濡れティッシュを壁にはりつける遊びがはやったことがありました。

濡らしたティッシュを校内の壁にむかっておもいっきりぶつけると、

「ピチャッ」

と、音がして、これが意外としっかりとくっつくのであります。

たいていのティッシュは、しばらくするとはがれおちていくのですが、

中には何かの奇跡が起きて、一日中はりついたままのもあり、そんな時は無性に嬉しくて仕方なかったものです。

当時ぼくらがはりつける壁というのは決まっていて、プールの横の水呑み場にある壁が、指定の場所でありました。

来る日も来る日もぼくらはその壁にぶつけていたのです。

ある日、友達の中の一人が丸一日すぎても、一週間すぎても、一ヶ月たってもはりついたままの会心の一撃を放り投げたことがあり、その時はもう仲間中で大騒ぎになりました。

「あのティッシュは果たしていつはがれるのか?」

何日経っても、ティッシュがカピカピにかわききって黄色く変色していようとも、雨がふろうがなんだろうが、とにかく頑なにはりついたままの姿勢を崩さないティッシュに、いつしかぼくらは、その姿に興奮していくようになったのです。

それからぼくらは毎日ドキドキしながら学校へ行き、水呑み場の壁を見上げて、

「今日もあった」

と確認すると、それだけで大変うれしくなり、毎朝ニヤニヤしながら一時間目の授業を受けるのでした。

ある日、台風がやって来て警報が出たために学校が休みになったことがあり、さすがにぼくらも覚悟を決めたのですが、それでも翌日しっかりとそのティッシュがはりついたままだったのを見た時は、大変さぶいぼが立ったことを覚えております。

余談でありますが、その会心の一撃を投げた友人はその後、それが原因でみんなの英雄になり、

しばらくして彼は

「教祖」

というあだ名で呼ばれるようになったのでありました。