「犬ドロボウ」

犬ドロボウが最近ここ界隈に出るようになってから、この街の犬の飼い主さんたちは近ごろ目にみえてピリピリしてきています。

もうなにかと言えば、すぐ人を犬ドロボウでも見るかのような目で睨みつけてくるので、まったく身に覚えのない人たちは、きっと不愉快な気分になっていることでしょう。

あんな態度は許されるものではありません。

けれどそれは飼い主さんたちのせいではなく、犬ドロボウの輩が全ての元凶なのだと頭ではわかってはいるのですが、 特に木下さんの最近の態度にはどうにも許せないことが多々あるのです。

木下さん…いえ、木下はひどいのです。

普通道ばたでバッタリ出会った時は

「こんにちは」

といったような挨拶から入るのが、最低限人としての礼儀であろうと私は思うのです。

ところが木下ときたらあいつは挨拶どころか…。

みんな、もうガマンの限界にきています。

もうこうなったら犬ドロボウもその正体が木下であれば良いのにと、 そうすればもう力いっぱい木下を恨めるのになと、 このようにみんな思っております。
けれど世の中というのは、えてしてそう上手く事は運びません。

犬ドロボウの正体は、残念ながら私だったりするのであります。

ああ、バレなければ良いのにと思うわけであります。