2リットルのペットボトルのふたをなくしてから、はや数時間がたちます。
探しても探しても、不思議なことにどこにもふたが見当たらないのです。もしメルヘン風な現実逃避をするならば、もはやこれは小人さんが現われてイタズラをしたとしか思えない感じなのです。
しかしあの時オレンジジュースを選んで、本当によかったと思います。もしコーラ的なものを選んでいたらと思うと、正直ゾッとします。
なんといっても、炭酸を失ってしまったコーラほど、なまぬるい精神の飲み物は他にありません。そうなってしまう前に何がなんでも飲みほしてしまわなければ、というプレッシャーに私はとても耐えられなかったでしょう。
けれど。
だからといって、この100パーセントオレンジジュースが100パーセント私に安心を与えてくれるのかというと、決してそんなことはありません。幸いまだ困ったことは起きていないのですが、やはりどこか落ち着かない気分ではあるのです。
「これは早急にふたの代わりになるものを探さなければならないぞ、早急にだ」
さきほどから同居人のフェルナンデスがそう言いながら、その代わりとなるものを探して部屋をうろつきまわっています。
やはり彼もふたがないことに不安を感じているのでしょう、「早急に」という口グセが出はじめている時というのは彼が相当なにかに熱中しているだけなのです。
「へい、オレはついに見つけたぜ。こいつはどうだい」
フェルナンデスが得意げに私の前に現われ見せたもの、それはごはんでした。
白いごはんだったのです。
「こいつはいいぜ。今の炊きたての状態なら握りしめたりして大きさの調節もできるし、それに時間が立てば自然とガビガビにかたくなってくれるし、言うことないぜ。早急にこいつをふた代わりにしようぜ早急に」
フェルナンデスは興奮しながら一気に私にそうまくしたてたのでした。
ごはんつぶをふたに…。
私にはとても理解できませんでした。
「ごはんが?なんでペットボトルのふたなんだ」
気が付いたときにはもう私はフェルナンデスのむなぐらをつかんでおり、それからハッと我にかえった時には、フェルナンデスのありとあらゆる部分の毛をむしりとってしまっていました。
なんでペットボトルのふたなのか。
そんな理由で、私にフェルナンデスの毛をむしる権利などあるはずもありません。
しかし毛は元には戻らないのです。
ふたが元に戻らなかったばっかりに…