「バンドのメンバー」

私はずっと、ハートウォーミングな詞世界に定評のあるバンドをやりたいと思っていました。
そのためにはドラマチックにドラムがたたける、いわゆる私たちの業界でいうところのドラマチックドラマーの存在が必要不可欠だったのですが、私の理想が高すぎたのでしょうか。本当に長いあいだ、理想的な人と出会えませんでした。
色々な方と一緒にセッション的な事をやってみたのですが、みなさんいかんせんドラマチックというよりは少しパワフルであったりスリリングな要素が強かったりと、なかなかイメージ通りに上手くいかなかったのです。
けれど一年まえに、同世代ではなく20代前半の若い世代の人を幾人か、友人に紹介してもらったところ、私はついに一人、これは! と思える若者と出会えたのです。
その時点で、彼はドラムの経験がなかったのですが、それでもまったく問題ないと、私は思えました。
なぜか。
彼はたしかにドラマチックドラマーではありませんでしたが、天性のドラマチックドリーマーだったからです!
彼が今からドラムを覚えてくれれば問題はありません、素質は充分すぎるほど感じとれました。
障害はただ一点のみ。
なんといってもドラマチックな事を常に夢見ている彼です。私のバンドのドラマー程度では夢を見れないようだったのです。それでも彼の事を諦めきれなかった私は、
「1万円あげるから私のバンドに入らないか?」
という大人の交渉に出る事にしたのです。
マクドナルド的なお店でアルバイトをして生計をたてている私にとって、1万円は本当にいっぱいいっぱいな数字でしたが、彼を我がバンドに入れるためならば惜しくはありませんでした。
するとおもわく通り彼は、
「マジっすか?」
とつぶやき、その眼をギラギラと光らせはじめたのです。
1万円。
やはり無視はできない金額であります。
彼の眼はドンドン鋭さをましていき、口元は歪み、手はかたくギュッと握りしめられていました。私はもうこうなったらと覚悟を決め、
「いや1万5千円でも良いんだよ」
と、最後の大勝負に出たのです。
彼は再び
「マジっすか?」
と声低くつぶやくと、一度深く深呼吸をし…そしてゆっくりと、その手を差し出してきました。
私は、
「マジだよ。」
とほほえみながら、彼の手の平の上にお金を置きました。
そしてその瞬間に、私たちのバンドは産声を上げたのです!
ありがとう。
次はそんな私たちの出会いを元に作った曲です、聞いて下さい。
「ひこうき雲を見ていた…」