「非常口」

人様から笑われずに非常口を使用するには、どうすれば良いのでしょう。
そこら辺は正に、人としての胆力を試される場ではないのかと、私は思うのです。
もしコーヒーだと思って飲んだドリンクが、実は気の抜けたコーラだった場合。
正直いって、私は非常にうろたえる事でしょう。
思わず叫んでしまうやもしれません。
だけど。
だからといって、ここで非常口を使うわけにはいかないのです。
その程度の事でいちいち非常口を使っていられません。
グッとこらえて、
「いやー、…コーラだった」
と曖昧にほほ笑むのが、一人前の紳士が取る行動なのではないでしょうか。
非常口から逃げ出す事なんて、いつでも誰でもできるのです。
簡単な事なのです。
それだけにわかりやすく、恐ろしいのです。
非常口を使った瞬間、自らにとっての非常事態が何であるかという事が、他人にハッキリとさらけ出されてしまうのです。
ああ、あの人はあの程度で非常口を使うんだなと、簡単に判断されてしまうのです。
恐ろしい。
非常口は恐ろしいのです。
もし非常口で非常事態が起きたら、などと考えはじめると夜も眠れません。
そんな時でもやはり私はスマートに乗り過ごしたいと思っています。
そう、おにぎりに例えるならば、私は丸でも三角でもなく俵型のおにぎりのような存在になりたいのであります。
ある種の威厳と風格を持って生きていきたいのです。
ええ。