「馬が葉巻を探す」

 馬になってから2年が経ちます。
  2年間とはこんなにも長い年月なのかと、こんなにも苦しくて長い時間があったのかと、私は馬になって初めて知ったのでした。
  ハッと気が付いたら馬になっていて、最初はもう何が何だかまったく理解ができませんでした。
  あの頃。
  なりたての頃はやはり昔が懐かしく思い出され、また今の状態が信じられずに、毎晩毎晩ないてばかりおりました。
  馬ではなかった時代の自尊心のようなものがなかなか捨てられず、また邪魔をして打ち解ける事もできずに、時には他の馬からいじめられた事もありました。
  こんな事なら産まれた時から馬が良かったと、自らの運命をずっと嘆き続けてきました。
  しかし。
  最近ようやく諦めがついてきたのです。
  毎晩毎晩ないてばかりいても仕方がないのだと。
  もうあの頃には戻れないのだなあという現実を、受け止める事ができるようになってきたのです。
  馬の寿命が、時間がどれほどあるのかはわかりませんが、残りの命は精一杯生きてみようと、今はこのようにさえ思っておるのです。
  草だって人参だって何だって食べてやろうと、このように決意まで固めたのです。
  やはり私は、どうしても生粋の馬たちとは性格が合わずやっていけそうにも無いので、だからもうこうなったら人間にお世話してもらおうと。
  覚悟も決めました。
  どうせ拾われるのならばやはりお金持ちの人が良いので、それならばと、タバコを吸っている人よりも葉巻を吸っている人のところへ寄って行き、愛想を振りまくようにしました。
  金持ちは、やはりタバコよりも葉巻を吸うだろうと。
  それにもし例えお金持ちではなくても、ジェントルマンには間違いないだろうという確信もありました。
  つまり、どう転んでも外れはない。
  そう、勝算は立っておるのです。
  後はチャンスだけなのであります。
  けれども、なんとも不思議で皮肉な事だなとも思っています。
  蝶々だったあの頃は人間に捕まって標本にならないように注意していたのが、今では人間を求めてさまよう事になるとは。
  一寸先は闇…いえ、馬なのであります。
  まったくもって。