「フランクフルト屋細腕繁盛記 後編」

 元旦の朝。
  私は憂鬱であった。
  前日朝五時まで労働していて、今日は朝八時からの労働なのである。
  憂鬱なのはそれだけではない。なにより今日もまた負けてしまうだろうという予感。ヒマだろうなという予感。
  そんなみじめな予感と睡眠不足で、私は元旦から最悪の気分だったのだ。
  朝までは。
  そう、私は橿原神宮を少しナメていた。
  元旦は、昨日とは比べものにならないぐらいの半端ではない人の大波であった。
 人、人、人。
  買う、買う、買う。
  お祭り。
  正にお祭りなのである。フランクフルト祭りである。
  みんなニコニコしながら、フランクフルトを買って行くのだ。朝から私はフランクフルトを焼き続けていた。焼いても焼いても追いつかないのだ。
  もう周りを気にしている余裕もなかった。というかあらゆる余裕がなかった。ずっと声を出しているのでお茶が飲みたいのに、すぐそこの自販機に行く余裕がない。猛烈に便所に行きたいのに公衆便所にも当然行けない。おまけに支給された昼の弁当を食べているヒマもない。
  焼いて売って焼いて売って焼いて売るしか、もう自分にはできないのだ。
  マラソンを走っているような高揚感が自分の身体を包んで行く。
  そして、六時。
  売り上げ119000円。
  あれほどの量の百円玉をみたのは初めてであった。
  元旦の初詣。
  ちょっとやそっとのイベントではない。
  とにかく私はその日500本以上のフランクフルトを売ったのだ。