「フランクフルト屋細腕繁盛記」

 奈良の橿原神宮へ初詣にきた人たちに、フランクフルトを一本二百円で売るのが、私の仕事である。
  当初の予定では私はとん平焼きを売る事になっていたのだが、人数の都合という事なのだろうかそれとも私がフランクフルト顔ということだからなのか、そこら辺の事情はよくわからないが、急遽、現場で私はフランクフルトの屋台を一人で任される事になってしまった。
  大晦日、31日も午後10時を過ぎるとチラホラと人が増えはじめている。
  とやかく言っていても仕方がない。商売の開始だ。
  私の左隣りの屋台は「まるまる焼き」という名のミニサイズのお好み焼きを売っている。一枚二百円。
  …安い。
  フランクフルトと同じ値段で見た目もおいしそうだ。正直これは隣り合わせなのはかなり不利なような気がする。
  強敵である。
  事実、そうこうしているうちに向こうは、もうすでに何枚か売れているようだ。
  年が明ける前だというのに、この出足の早さはどうだ。
  強敵である。
「キャー、かわいい」
  そして先程からそんな喚声が起きているのは、私の右隣りの「キャラクターまんじゅう」の屋台の前であった。
  許可を得ているのかどうかかなり怪しいが、ミッキーマウスやドナルドのまんじゅうを、そこの屋台では売っているのである。
  カップルは大体そこの店で足を止める。そして女性が「かわいい」と言えば、男は「君の方がかわいいよ」的なだらしのない笑顔を浮かべて、そのまんじゅうを買って行くのだ。
  そして私は、そのすぐ横で人気のないフランクフルトを焼いているのである。
  正直に言えば私は、その時少し泣いていた。
  フランクフルトはなんて地味なんだ!
  私は、ともすればそう叫び出してしまいそうだった。
  かわいさのかけらもない、むしろどちらかといえばグロテスクな類いのフランクフルトが私は不憫でならなかった。
  そして私は誓ったのだった。
  みじめな気分とは2004年でサヨウナラさ。2005年からはフランクフルト、お前をスターにしてみせる、と。
  そして、いよいよ年が明けた。(つづく)