「ハム」

トイレの中でボクは毎朝ハムを食べる。
用を足すわけでもなく、何げに、といえば少しシャレこみすぎではあるが、まあ何げにハムを食べる。
トイレの中でハムを食べる理由。
そんなものはない。
探しているんだ、といえば少しシャレこみすぎだろうか。
食パンにハムをはさんで食べる。
違う。
ハムではなくウインナーをかじる。
違う。
用を足そう。
違う。
全てボクの中でしっくりこなかった。
ハムを食べる。
OK。そう、これだ。ボクはそう思った。
「ハムは何げに食べるからハムなのよ」
と母親は言う。
「私はアナタに何も教えられなかったから」
と母親はボクを見つめる。
「せめてハムは何げに食べてほしいの」
と母親は泣く。
お母さん。ボクはお母さんに何もできないけれど、ハムは何げに食べているんだ。
と毎朝トイレの中で想う。
母親はそんなボクに言うのだ。
「トイレの中で物は食べないで!」