「ラグビー部物語9」

もうすぐ夏休みだ、という一学期の終業式間際、ぼくは盲腸になってしまった。
ラグビー部での練習を終え、いつものように自転車で帰っていると急におなかが痛くなってきたのだ。
「早く家に帰ってウンコしよう」
などと、初めの内はそう思っていた。
けれども家に帰ってトイレへ駆け込んでみても一向に大便は出ない、出る気配もない。
「何だこれは」
と、今まで経験した事のない類のお腹の痛みに、しかしぼくはこの時若干の疑問しか抱かなかったのだ。だから、
「ちょっと行ってみよう」
と、その日が日曜日で練習がお昼に終わっていた事もあり、ぼくは無謀にもその頃よくやっていた「大型の古本屋に行って何時間も立ち読みし続ける」をするためにお腹の痛みを押して出かけて行ってしまうのだ。
当時立ち読みはぼくにとって休日の大きな楽しみの一つであったのだ。ヤングマガジンなどに連載していた漫画は大体この当時に立ち読みによって全巻読破していた。4、5時間ぐらいなら余裕で立ち読みし続けていたのである。
だがその日、当然盲腸の痛みによりぼくはそこの古本屋にてもはや立つ事もできなくなり、うずくまりながらそれでも必死に立ち読もうとしていた。
なぜここまで立ち読み至上主義を貫かねばならなかったのかは甚だ疑問ではあるが、さすがに読んでいてもサッパリ内容が頭に入ってこないし、なにより立てないぐらいのお腹の痛みに身の危険を感じたぼくは、フラフラになりながらも家に帰る事にしたのである。
当たり前だ。
が、ぼくは家に帰った後もまだ、
「寝たら治る」
などとわけのわからない事を考えていたのである。
いざ寝ようとしても痛みで寝れず、けれどそれでも寝たら治るんじゃないかと思っていたぼくは必死になって痛みと闘い、寝ようとした。
で、何とか眠れたのである。
あの時ほど寝る事に集中した昼寝はないだろう。
当然寝ても治るハズもなく、うなされているぼくをみるにみかねた父親が病院につれていってくれた。
そうしたら即日入院、即日手術でアッという間にぼくの体から盲腸が無くなってしまうのだった。
無駄な我慢はしない方が良い。