恋のカラッカラ騒ぎ
第一話「出会った頃の君でいて。」
第一話妄想ゲスト ごまのはえさん(ニットキャップシアター)
2008年11月 手袋が恋しい自転車通勤。定時に退勤して、スーパーで買い物。
「風邪ひきそう」って言ってたし、、、晩ご飯のメニューは豚キムチ鍋にしよっと。
さんまが安売りしてたのでついでに買って帰る。
冷たい風に吹かれながら、下鴨の疎水の脇を自転車で走る。
スーパーの袋から飛び出した白ネギがキンキンに冷えておいしそう。
一緒に住み始めた頃は、しょっちゅうアトリエ劇研まで迎えにきてもらった。
「この辺は道がよく似てるから、分からなくなる。」と私が言うと、
「今のうちは可愛いから許す。」と言われた事を思い出す。(笑)
おや・・・?今日はめずらしく鍵が空いている。
「ただいま〜。」
お帰りーの返事のかわりに「おなかすいたー!」と叫び声。
お前は子供か!
「まだ6時前なんですけど。」
と言いながら、部屋に入らずに台所でさっそく晩ご飯の準備。
「今日なに?」
「鍋」
「何鍋?」
「適当」
嘘。ほんとは豚キムチ鍋。
「風邪ぎみやっていってたから、おネギ沢山食べてね。」
ってなんで言えなくなっちゃったのかな。
「いつまでも可愛い自分でいたいから、ごまちゃんの前では絶対おならせーへん!」って言ってたのになー。
大学を出て、新卒で銀行に就職して、私には演劇なんて世界に触れる機会なんてなかった。
〜2003年 春〜
ー37番のカードをお持ちのお客様、2番の窓口へお越し下さい。ー
機械の音声が鳴る。窓口にやってきたのは、小柄なおじさんだった。
「いらっしゃいませ。」
「僕の誕生日なんです。」
「え?」
「37。3月7日」
「あ、あはは。」
「なんか嬉しいですよね?。こういうのって。自分の誕生日ってなんか自分の数字って感じで特別ですよね。」
「そうですねー。」
いきなり何なんだ。。と思いながらも笑顔で答える。
「お誕生日いつですか?」
「は?」
「おたくの?」
「ああ、えーと、、、11月13日です。」
「1113」は番号札では無いなー。残念!」
なんなんだよ!
それが彼との出会いだった。
それから、1週間に一度、彼はお金を引き下ろしに窓口に来た。
暗証番号を忘れてしまい、カードが使えなくなったとのこと。
「再発行しましょうか?」と聞いたけど、
「これで5回目なのでもう良いです。」という事で、毎回窓口でお金を下ろす。
週1回 月4回 はじめの印象は最悪に近いものがあったけど、毎週来られると自然に仲良くなるもので、窓口での短い時間に彼のことは少しづつ分かっていった。
年が3つしか違わないこと(びっくり!おじさんだと思ってたから。)
野球が大好きなこと
大学から京都に来ていること。
家のガスが止まっていること。
焼き魚が大好きなこと
どうでも良い事ばかりだけど・・・。
そんな日が3ヶ月ほど続いたある日、一枚のチラシを渡された。
《愛のテール》
「お芝居・・・?やってるんですか!?」
「ええ・・・。」
恥ずかしそうにしている彼。チラシを見てもどこにも彼の名前が無い。
「出てらっしゃらないんですか?」
「あ、えーと ごまのはえって名前なんです。」
「ご、ごまのはえ・・・。ああ。」
コメントしようが無かったが、チラシを見ると「作・演出 ごまのはえ」とあった。
作家さんだったのか・・・!
「きっと面白いので、良かったら見に来てください。」
と言って彼はそそくさと帰っていった。
お芝居。観たことないし、ちょっと行ってみようかな・・・。
友達も誘ったが「気持ち悪い。」と断られ、結局一人で観に行く事に、三条御幸町の「アートコンプレックス1928」というビル。
素敵な建物。劇場に足を踏み入れると、沢山のお客さんと、舞台に近さにびっくりした。独特の雰囲気に胸がドキドキする。
舞台が始まった。
衝撃だった。今まで自分が生きて来て、こんな世界を知らなかった事に後悔をした。
すばらしい舞台に、私は涙が止まらなかった。
終演後、彼に会う事は出来なかった。
早くお金を下ろしに来てほしい。聞きたいことが沢山ある。感動した事を伝えたい。
彼に会いたくて仕方がなかった。
長い長い1週間がたって、彼がやってきた。
胸がドキ!とする。
あれ、話たいことが沢山あったのに、緊張して顔が見れない・・・。
「こないだ、観に来てくれてましたよね?」
「は、はい! ってなんで知ってるんですか?」
「演出なので、客席から観てて、紙本さんに良くにた人がいたから、もしかしてっと思って。」
ええ!じゃあ、めっちゃ泣いてるところも見られたのかな・・・はずかしい〜。
「どうでした・・・?」
「えっと、、面白かったです。」
と言った瞬間、彼に伝えたかった言葉がぶわ?!って溢れて止まらなくなった。
「「感動した!」を3分間で50回は言ってたで。小泉純一郎かと思ったわ。」
今でも話題に出てくるくらい、その日の私はおかしかった。
その日、もちろん店長に怒られた。
次の日から窓口ではなく喫茶店で会うようになった。
いつまでも話がつきなかった。
告白なんてしなかったしされなかった。
気がついたら、一緒に住んでいた。
一緒に住み始めた当初は、ルールが沢山あった。
おならはしない
いつまでも「ちゃん」づけて呼ぶ。
喧嘩したら、1時間後に一緒に謝る。
ご飯は食べる時は絶対「おいしい!」と言う。
他にも色々あったけど、わすれちゃった。
今では、目覚まし時計のかわりに、おならの臭さで起こされるくらいだもんなー。
「お湯、沸きまくってるで。」
気がついたら後ろに彼が立っていた。
「うわ!びっくりした!」
どれくらいぼーっとしてたんやろう。
ごま「どうしたん?」
私「なんもない、ちょっと色々思い出してただけ。」
ごま「何を?」
私「・・・ごまちゃん。」
ごま「は?っていうか久々やなその呼び方。」
私「へへ。」
ごま「きも。」
な!可愛くしたのに、きもいって・・・!
ごま「あ、さんまや?、やったね?。」
私「あかんで、今日は鍋。さんまは明日やから。」
ごま「さんまも食べる。」
私「あかん。」
ごま「なんか怒ってる?」
私「別に。」
ごま「きもって言ったの怒ってる?」
私「今更怒るかいな。」(ほんまはちょっと怒ってるけど。)
ごま「お詫びにこれどうぞ。」
私「なによ?」
ごま「次の公演の台本書けた。」
!!
何よりも嬉しい。
そして唯一守られてるルール。
《台本書いたら、一番始めに読ませてくれる。》
鍋の準備も途中に読む。
ごま「えー、お腹すいてんけどー。」
私「渡すタイミングが悪い。」
できたての台本を読む。
「クレームにスマイル」
タイトルを見ただけでワクワクする。
ゆっくりゆっくり読む。終わってしまわないように。
トン、トン、トン、トン、トン、トン、トン・・・・。
台所からは、手際の悪い包丁の音。
と、
さんまの焼ける匂い・・・。
私「あ!さんまは明日ってゆーたやん!」
ごま「読むタイミングが悪い。」
ま、、、いっか。
今日はご褒美ね。ごまちゃん。
おわり
物語はフィクションであり、出来事は全て紙本の妄想による架空のものです。
妄想に快くご協力頂いたごまのはえさんに、深く感謝申し上げます。
※物語はフィクションですが、「クレームにスマイル」は本当にあるお芝居です。
第一話妄想ゲスト ごまのはえ さんの公演情報
ニットキャップシアター第24回公演『クレームにスマイル』
■京都公演■
会場|ART COMPLEX 1928 (三条御幸町)
日時|2008年 11月20日(木)〜24日(月・祝)
料金|一般前売 3,000円 当日 3,300円 (全席指定・各種割引あり)
■東京公演■
会場|ザ・スズナリ (下北沢)
日時|2008年12月11日(木)〜14日(日)
料金|一般前売 3,200円 当日 3,500円 (全席指定・各種割引あり)
詳細は>>特設サイトへ