妄想劇場ーその10ー


北白川とは聞いていたが、もちろん行った事は無い。
北白川バッティングセンターで待つ事3分。

「紙本さ~ん!」
振り返るとエプロンをかけたポールが走って来た。
うおう、エプロン!なんてかわいい人なんだ!
しかもちょっと白いこなが顔に付いている!

「ごめん待った~!?ハアハアハア」

「大丈夫、今きたところやで。それよりエプロンにスリッパって、完全にお母さんやね(笑)」

「ほんまやな(笑)」

白川通りより東へ5分ほど行ったところ。
「レオパレス21」 みたいなオシャレな学生マンションの1F

イメージ通りや・・・。
私の家はお風呂が付いてなくて、家賃も安い。
ユニットバスのお風呂に入るくらいなら、お風呂無しで銭湯に行った方がいい!
と決めたアパートだった。
もちろん、彼氏を作る事が想定されていないアパートだ。

中に入ると、餃子の良いにおいがしていた。
シンプルで綺麗な家具とオシャレな照明
一人暮らしとは思えないかっちょいいソファー。
そしてロフトが付いている。

イメージを通り越している・・・。

「もうすぐ出来るし、座ってテレビでも見といてー。」
「うん。。。」

て、いうか客は私一人なのか・・・!
ていうか私、お、男の子の家に上がったの、初めてじゃないだろうか いや初めてです。
いきなり緊張してきた・・・。こういう時は何をしたらいいのだろう。

「なんか手伝おうか?!」

「あ、いいよいいよ。なんか音楽でもかけようか。」

「いや!いい!テレビ観ておくわ!」

ムーディーな音楽とかがもしもかかったら、私はどうにかなってしまうわ。
お笑い番組でも観よう。

お笑い芸人たちが沢山出ていて、漫才なのかコントなのか、
ゲーム的な事をやっているよくわからない番組が流れていた。

番組どころじゃなかった。

私は今年で22歳になるが、彼氏というモノを作った事が無い。
いや、正確に言えば高校2年生の頃、2週間だけ彼氏がいた。
電話を数回して、デートを一度しただけですぐに別れてしまった。

つきあうという事が、よく分からない。
自分が自分でなくなるような、普段の自分で無くなるのが気持悪い。
なので、彼氏の家にも行った事が無いし、もちろん処女だ。

21歳になって、周りの友達も彼氏が出来て、みんなバージンを失っていく。
少しづつ焦る気持もあった。
けど、焦って仕方が無いし、焦っても彼氏が欲しく無いんやから仕方がない、など考えながら、
けどこれは処女コンプレックスというヤツだろうなー。
そんな言葉が有るか分からないけど、なにせ、処女という事が恥ずかしい。という気持が最近生まれていたのだ。別に恥ずかしい事じゃない!むしろいい事じゃないか!結婚するまで処女でいく!
って何考えてんねん!

やばい、何考えてんの!
この流れで、そんなポールとそんな事なる訳ないやん!ばかばか あ~恥ずかしい。
つきあってもないねんで!

「出来たよー、お待たせー」

「おお!!」いきなり現実に引き戻され、思わずでかい声を出してしまった。

「どうしたん!?(笑)テレビに集中しすぎ?(笑)」

「いやいや、わ~すごいおいしそう!!すげーすげー!」
あれ、このお皿どっかでみた事ある気がする。かわいいな。デジャヴ?

「紙本さん、ビールでいい?」

「うん。」
まいっか。

「はい、じゃー、カンパーイ!」
「カンパーイ!」

うまい・・・。
なんで餃子なんか作れるんだろう。

「うまい!すごいなー鮫島くん」

「ほんまに!?嬉しい~。」

「なんで餃子なんて今日作ったの?」

「料理好きやから、けっこうよく作るねん。紙本さんは料理するの?」

「あー、ぼちぼちかなー。いつも作るものは同じモノになるけど。」

「得意料理は?」

「なんやろー?うーん和食かなー、まー煮るだけやけど。餃子は作った事ないなー」

「簡単だよ、教えてあげるよ。」

「是非是非!じゃー、私もなんか教えてあげようかっていっても教えるほどでもないな・・・」

「じゃあ、みょうがの料理教えてよ。」

「え、みょうが?なんで?」

「だってみょうがと言えば、紙本さんだよ。」

あああああ~、みょうが!そうだ!

「ははっ!なんやったっけ?あの本」

「《みょうがが美味しい季節》だよ。」

「そうそう!鮫島くん 良く覚えてるなー!」

「覚えてるよ、衝撃的やったもん。」

「衝撃的?みょうがが?」

「みょうがもやし、紙本さんに会えた事も。」

「え・・・・」

ちょっと待って、めっちゃ緊張する。なにこの雰囲気。

「図書館で会う前から、紙本さんの事しっててん。」

「あ、それ前聞いたね、えーとなんかで一緒やったっけ?」

「学園祭で、陶芸店出してたよね。それで。」

「あ!そん時に、来てくれたんや!」

「このお皿、その時に買ったんだよ。」

「ああ!!!可愛いお皿やなーと思ってたら、そっか、私が作ったんやん!」

「ははは!紙本さん、面白いなー!」

「ははは そっか、ありがとう! 使ってくれてんねや、めっちゃ嬉しいわ。」

「いえいえ。その時もすごく喜んでくれて、なんかめっちゃ良い事したような気分になったよ(笑)」

「あはははっ なんか恥ずかしい。」

「そう、そんときに、可愛い人だなーって思って。それから半年後に図書館で会った時に、
ああ!あの人や!って思って、すごい嬉しかった。」

可愛い人。。。
初めて言われた。
こういう時はなんて応えたらいいのだろう。

「あ、あ、なんかありがとう。」

「紙本さん、彼氏いる?」

「え! いや、いない。けど」

ーシーンー

えええ・・・沈黙。なんか喋ってくれ。
どうしよう、こういう時は、、

「えーっと鮫島君は、彼女いるの?」

ーシーンー

「いる。」

あら?流れがおかしいねー。いる!?
いるのか!?

「いるねんけど。別れようと思ってるねん。」

「え、なんで?」

「あかん、順番間違えた。これはダメだね。」

「へ?」

「彼女いるけど、紙本さんが好きやから、別れようと思っています。」

現実と思えない。何てこたえたらいいのだ。
マンガみたいな時間と台詞。
いや、これは妄想か?ほんとにあった事なのか?
とにかく今 死ぬ程 はずかしい。

つづく。

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