(14)吉岡史樹×ファックジャパン
「パッと見えてる肩書きとかどういう領域の人かっていう以外に、どれだけその奥がつながってるのやっていう」
7月某日 大阪某所で
吉岡史樹さん(株式会社ペルペトゥーム 代表取締役)
○演劇人に出会った時に思った事
FJ:あのまず、自己紹介をしていただいていいですか?
吉岡:自己紹介ですか?自分が何者なのかって事ですか・・。
FJ:はい、それで劇団衛星との関わりなんかをお話していただければ。
吉岡:わかりました。えっと、職業はプログラマーです。自分で会社をつくりまして(※1)、その会社はもちろんプログラムのお仕事をしてるんですけど、とあるご縁で劇団衛星さんとお仕事させていただく機会がありまして。なので、劇団衛星さんはお客さんですかね。お仕事は劇団衛星さんのホームページの、ファックさんのコラムとかの更新をして、衛星さんの情報を発信する裏方をやらせてもらっています。
FJ:ありがとうございます。その依頼は衛星からあったんですか?
吉岡:一番最初はですね、金田典子さん(※2)と私が大阪のイベントか何かで知り合って、お互い自己紹介したら「京都の会社です」「京都の劇団です」ってなって。「そうなんですか、お互い京都なんですね、また機会がありましたら」って。でも大抵そういうの、機会なんてないじゃないですか。
FJ:ないですね。
吉岡:けど、金田さんから、
FJ:連絡が!
吉岡:はい、「劇団の者と一緒に会社にお伺いしていいですか?」っていう連絡をいただいたんです。
FJ:へー。
吉岡:それで三人ぐらいで来られまして、蓮行さんのクリアなのか怪しいのかわからない話を色々とお聞きして。
FJ:ハッハッハッ。
吉岡:なんかこう、不思議なところで、何か共感があったんでしょうね。「あ、何かこの人ら大丈夫や」みたいな。私の受けた印象では、すごく色々考えて運営をしてはるって感じましたし。
FJ:へー。
吉岡:プログラムと演劇って接点ないみたいな感じなんですけど、何か、あるんちゃうかっていうお互いの勘?がありました。で、具体的に話が進んでいって、まず、ホームページとかのお仕事をやらせてもらうようになったんです。
FJ:「吉岡さんの会社はすごいところやったぜ」みたいな感じで、当時、蓮行さんたちがはしゃいで帰ってきてたんは、何となく覚えてますね。演劇人と、普段お付き合いされてる方とは違いましたか?
吉岡:そんなに違いは感じなかったですね。
FJ:ああ、そうですか。浮世離れした人たちだなとか・・?
吉岡:ああいや、思わなかったです。そもそも自分らが浮世離れしてましたから。何か、どちらかといえば、同じかな・・ぐらいにも感じられるというか。逆に、同じような感覚で仕事してる会社って他にあるんやなって思いました。
FJ:そうですか!どこら辺に共通項を感じてらっしゃるんですか・・・?
吉岡:こう言うと何なんですけども、衛星の皆さんって、一般の企業で働くタイプではないというか。でもそういう人たちが、会社としてちゃんとやろうよっていう、自分たちを制御するっていうか。その制御がないと完全にどうしようもない人生になってしまうって、まず僕がそう思っていて。
FJ:えー!
吉岡:このままやと社会で生きていかれへんかもしれへん人たちに「会社」っていう運動場みたいなものを与えて、一応のルールを与えると何とか生きていける(笑)。一般企業じゃなくてここならこの人たちはどうにかなるかもしれないし、逆にここじゃないとこの人たちは、世の中に自分の能力を届ける事ができないかもしれないっていう、勝手な自負ですね。ちゃんと働ける人はうちでは稀です。何か、劇団衛星さんもそうなのかなって思ってます。そうではないですか?
FJ:まー、確かに。蓮行さんなんかは、すごいシビアな劇団のミーティングをしてる時にも寝転がって、お菓子のカールを食べながらだったりしますからね。
吉岡:それはでも、きっと、自分を楽にすることでできることってあるんでしょうね。それは感じます。
○勝ち戦、負け戦
FJ:一番劇団衛星っぽいなって思う人って誰ですか?
吉岡:植村さんですかね。この人が劇団衛星だなって思いますね。劇団のプロデューサーであり社長でもある植村さんが、「私は役者を引退したとは一度も言っていない」っておっしゃっているのを聞いて、この人が劇団衛星なんやって思いました。(※植村注:植村は学生時代、役者もやっていまして。劇団衛星では旗揚げからずっと制作をしていますが、「役者を辞めて制作になった」という意識は、特にありません(笑)、という話を以前吉岡さんにしました。)
FJ:植村さんは俳優の一人でもあったんですね。
吉岡:ぼくはそれを聞いて、俳優か俳優じゃないかというよりも、ああ植村さんが劇団衛星そのものだなと。
FJ:そしたらこの20周年記念の公演が俳優として絶好の復帰の機会やったかもしれませんね。(※植村注:だから、「引退」してないんやから「復帰」もないねんて(笑)。)
吉岡:蓮行さんに演出されるのは嫌なんですかね。
FJ:植村さんは勝てる勝負じゃないとやらない方なので、もしかしたらまだ機をみてはるのかもしれないです。
吉岡:何かそこは蓮行さんもそうで、蓮行さんも植村さんも勝てる戦だけをする印象ですけど、それに反して紙本さんとか黒木さんは「負けでいいがな」ていう勝負をあえて挑んでいるというか(笑)
FJ:ハッハッハッ
吉岡:ユニット美人の負けっぷりは、ぼくすごい好きですね。
FJ:負けっぷりで勝ってるところもあるかもしれません。
○舞台を観るのはどうして
FJ:小劇場のお芝居ってどうですか。観るの、面白いですか?
吉岡:そんな年間何本も観ないぼくが言うて良いのかわからないですけど、舞台観るのは好きですよ。ぼくが小劇場のお芝居を観始めたのは、多分金田さんに誘われて観た、芸術センターの、あの、ファックさんも出てた・・
FJ:『宇宙の旅、セミが鳴いて』(※3)!
吉岡:はいはい。それから、劇団衛星の東山青少年活動センターで観た・・紙本さんがファックさんの奥さん役をやってらした・・
FJ:あ、松田正隆さんの・・『蜉蝣』(※4)!
吉岡:あ、そうですそうです。それから同じ時期に、ニットキャップシアターのやつ(※5)を観て。この3つが、自分が小劇場を観る時の基礎みたいになってます。
FJ:へー。
吉岡:芸術センターのお芝居は、産まれた雛が初めて演劇を観たっていうぐらいの、何もわからないやつで。で、ニットキャップシアターの劇は、登場人物とか場面転換がすごく多くて、ある時はAさんの目線で描かれ、クルクルって変わって今度はBさんの目線になってて。関係ない人の目線で描かれて次戻って来たらこの人とこの人が実はつながってたみたいな。そういうのが描かれていく中でずっとやっていくと、テーマっぽいものにたどり着き、そして人が叫び(笑)、終わっていくっていうのが、ニットキャップシアターの劇体験で。
FJ:あーー。
吉岡:その次に『蜉蝣』を観たんですけど、全く意味がわからないというか(笑)。これなんの話?ってなって。けど、その時にニットキャップシアターの事を思い出して、なんか断片があるんやろなって。シーンとか断片があって、それでこれはどういうお話なのかをあなたに今色んなシーンを観せてるんだから、それを自分で頭の中でパズルみたいに組み合わせて、あなたが考えなさい、みたいな感じかなって思いながら観るのが・・すごくその、インテリな楽しみなのかなって。
FJ:あーー。
吉岡:プログラムの世界でいうと、「インタラクティブ(※6)」ていう言葉があるんですけど。観る側も何かせなあかんというか。自分が舞台に上がって何かするわけじゃないんですけど、意識的にこう観たらこう観えるんやなとか、そういう事を自分の方からも考えないと。何の為に演劇を観に行くかって。自分がどれだけ演劇を観る力を持っているのかを試しにいくというか。そういうのも小劇場の魅力かなと。
○吉岡さん(プログラマー)と舞台俳優の共通点
吉岡:プログラムの世界は、こういう物を作る人、こういうパーツを作る人みたいな感じで、結構分業してることがあるんですね。でもぼくがやらしてもらう仕事って、わりと何でもせなあかんところがあって。それは多分お芝居の世界でいうと、俳優なんだけど衣装もやらなあかん、場合によってはキュー出しもせなあかんとか。そういうなんでも屋をやっていかないと仕事にならへん所でやってるところがあって。そうやって色々やってると、例えば完全分業の世界に行った時に、周りが見えるんですよね。
FJ:なるほど。
吉岡:多分あの人はこういうの欲してるな、とか。あ、これ先にやっとけばいいなって思って、やると、感謝される。でもそれが見えるのは普段からの野良犬根性、というか、もう何でもかんでもやらなあかんからって四方八方を見てるおかげで鍛えられていて。いざ本業で、これやってって言われた時に、もちろん自分のこともやるけど、他の人の仕事の事まで気配りっていたらアレですけど、できるのは楽しいですね。
FJ:舞台俳優が、今テレビドラマとかで重宝されたりするのは、そういうところもあるのかもしれないですね。
吉岡:ぼくは、大河ドラマとか朝ドラとかよく見ますけど、なんとなくわかりますもんね、この人舞台の人だなって。
FJ:それは・・自分と同じ匂いがするからって事ですかね?
吉岡:かもしれないですね。プログラマーって言われる人たちをパッと見た時に、この人は求められてる仕事はうまくやるな、だけどいきなり無茶ぶりされたら完全に止まる人やなって(思う時がある)。でもそうじゃない人は、「わかりました何とかします」て、応用きかしてしまう。パッと見えてる肩書きとかどういう領域の人かっていう以外に、どれだけその奥がつながってるのやっていうのは、それはやっぱり同じ技術者なら要りますし、役者さんもそんな感じなんちゃうかなって気はしてますね。
○吉岡さん(プログラマー)と蓮行さん(演出家)の共通点
吉岡:プログラムを書類で送って来られても、こんなんもう、ええと。早く建て込みしようと(思います)。
FJ:あー。蓮行さんもそうです!
吉岡:早くそこに立って、そこでつくらせてって。
FJ:似てる!あの、似てるとこ探してるわけじゃないですけど。演出家って、俳優の練習にも付き合ってくれたりするんです。ここが上手くいってないな、じゃあこういう風にやってみたらとか。もうちょっとゆっくり動いてみたらとか。でも蓮行さんは付き合わないというか。うまくいってない時には不機嫌になるというか。だからうまくいってへんねんなっていうのはすごく伝わるんですけど。
吉岡:わかる。めっちゃ一緒ですね。プログラムのやり方とかがわかってない人が「どうやったらいいんですか?」て聞いてくると、「いや・・わかるとかじゃないやろ」って。
FJ:ああーー、それや!蓮行さんも同じ事言うてる。「センスだよ」「才能だよ」って。
吉岡:そこにあるべき何かがあったら、動いてりゃ何でもいいんです。例えば花火が上がったような説得力があるプログラムやったらそれで良しというか。正しいプログラムとかないから!って。
FJ:ああ、似てる!
吉岡:そんな共通点があったんですね。
FJ:ああ、そうか。じゃあ創作に行き詰まった時は、吉岡さんに聞くと良いかもしれないですね。
吉岡:いやー、蓮行さんが考えないような解決方法とか言えたら、かっこ良いんですけどね。それってこうちゃいますかってクールに言えたらね。
FJ:でも吉岡さんの言った言葉を、蓮行さんが自分の言葉のように使ってはるのは良くあると思います。
吉岡:それは光栄ですね。
FJ:代表的な言葉でいうと、「工数(※7)」。
吉岡:ハッハッハッ!
FJ:多分吉岡さんから聞いたんやろなって。
吉岡:工数は重要です。全ての基本ですから(笑)。
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【註釈】
※1:自分で会社をつくりまして
京都のソフトウェア開発企業「ペルペトゥーム」
HP http://www.perpetuum.co.jp/
※2:金田典子
女優。大学入学と同時に演劇を始め、大橋也寸・太田省吾教授に芝居を学ぶ。2001年「狂躁里見八県伝」より劇団衛星公演に参加。2003年より入団、2005年退団。
※3:『宇宙の旅、セミが鳴いて』
京都ビエンナーレ2003演劇公演「宇宙の旅、セミが鳴いて」
文化庁芸術祭大賞受賞作品
2003年10月4日~13日
場所:京都芸術センター・講堂
作:鈴江俊郎(劇団八時半)
演出:高瀬久男(文学座)
出演:木村保(虚航劇団パラメトリックオーケストラ)、豊島由香(TARZAN GROUP)、F・ジャパン(劇団衛星)、佐伯花恵、駒田大輔、山本麻貴、林賢郎(漁灯)、中村美保(劇団八時半)、金田典子(劇団衛星)、織田陶子(文学座)、岡嶋秀昭(劇団衛星)
※4:『蜉蝣』
3月実験劇場「蜻蛉」
2005年3月4日~6日
会場:京都市東山青少年活動センター
作:松田正隆 演出:蓮行
出演:岡嶋秀昭 ファックジャパン 黒木陽子 紙本明子 国本浩康(電視游戯科学舘) 中山このみ(劇団SFP) 出口結美子
※5:ニットキャップシアター
劇団HP http://knitcap.jp/
「ニットキャップシアターとは?」より以下引用
京都を拠点に活動する小劇場演劇の劇団。1999年、劇作家・演出家・俳優の ごまのはえを代表として旗揚げ。関西を中心に、福岡、名古屋、東京、札幌など日本各地で公演をおこない、2007年には初の海外公演として上海公演を成功させた。
一つの作風に安住せず、毎回その時感じていることを素直に表現することを心がけている。代表のごまのはえが描く物語性の強い戯曲を様々な舞台手法を用いて集団で表現する「芸能集団」として自らを鍛え上げてきた。シンプルな中にも奥の深い舞台美術や、照明の美しさ、音作りの質の高さなど、作品を支えるスタッフワークにも定評がある。
※6:インタラクティブ
「対話」または「双方向」といった意味で、ユーザーがパソコンの画面を見ながら、対話をするような形式で操作する形態を指す。
※7:工数
製品を造り上げるなど一まとまりの仕事を仕上げるまでに要する、作業手順の段階数。工程の数。